| 夢を買う |
お正月に田舎に帰ると、少しづつ通販モノが増えている。
私が最初に発見したのは、
トニーなんたらとかいうトレーナーの人の腹筋を鍛えるビデオ3巻だった。
(何故よりによって、こんなものを...)
と、思いつつ、
「何これ」
と母に聞くと、
「通販で買ったの。お父さんなんか、3日でお腹がひっこんだのよー」
だそうだ。
通販で買った事を恥じる気配は微塵もなく、えらい喜びようだ。
いったい...
母もやっているらしかった。
3日坊主の典型ともいえるウチの家族が、3日以上続くことがあるのか?
と、疑いながら、その、トニーなんたらのビデオを見た。
最初から、えらいハイテンションで、見てるだけで痩せそうだ。
でも、けっこうこれが、ききそうな体操で、
思わず私も見ながら一緒に体操してしまった。
ふん、けっこうマトモなのね...
と、思えるモノだった。
「続ける為には無理をしないで...」
とかトニーはしきりに言うのだった。
やっぱり通販で買った事を後悔させないために
こんな事を言うのだろう。
と、思わせる程何度も言うのだった。
結局、一回位ビデオの体操をやってみたが、
確かにこれを毎日やれば、おなかは抜群にスマートになるはずだ
と、思った。
でも、毎日続けるにはちょっとハードではないかと思えた。
その証拠にウチの親が体操しているところを
帰省中一度も見ることはなかったのだった。
帰る前に
「トニーのビデオ使ってないなら、ちょうだい」
と言ってみたところ、
「使うからダメ」
と、言われてしまった。
いつ使うのかしらないけれど...
その次のお正月、また通販モノを発見した。
今度は髪をカットする機械だ。
これも私はテレビでCMを見た事がない。
なんと、その機械はご家庭用の掃除機にとりつけるのだ。
母の髪をカットしてあげようとしたとき、 父が突然登場して、
「あれを使え」と言う。
何だか、多分3回も使ってないであろうその機械を
物置から取り出して説明書を読もうとすると、
「こうやるんだよ」
と、父自ら、慣れた手つきで掃除機に取り付け、
髪の長さに透明のアタッチメントをつなぎ、
掃除機の電源をつけた。
ジャカジャカジャカジャカ...
と、芝刈り機かと思われる程すごい音を出して
機械は動いた。
そして、なんと!
髪の毛を吸い上げながら、母の髪を刈っていく。
なんだかSFチックな感じさえした。
しばらくすると父は、そのアタッチメントがうざったくなったのか、
アタッチメントをほとんど外してしまい、
毛を手で持って、毛先の方だけ機械を当てて刈っていた。
きっとそのアタッチメントで長さを均等に保つんであろうのに、
そのアタッチメントをはずしたんじゃ、意味がないんでは...?
と、思ったがほうっておいた。
「どうだ」
と、ひとしきり刈り終えて父は満足気だった。
母の髪形は
ブチーっと揃っていた。
アタッチメントを外した割にはけっこう揃っていた。
揃いすぎてヘンなんじゃ?と、思ったが、
「いいんじゃない?」
と言うしかなかった...
田舎から帰って、その髪を刈る機械をテレビの通販CMで、
やっているのを見た。
「ひとりでもカットできます」
とか言って、実際やっていた。
確かに切った毛が飛び散らないのはいいと思うが、
実際買いたいという気は起こらなかった。
何故、親がこれを買う気になったのか不思議だった。
通販の誘惑にとても弱いらしい事だけは確かだ。
でも、デパートとかでやっている実演販売では買ったりしない。
「あれは魔法だから」
と、母は言って近づかないようにしていたが、
通販CMも同じじゃないか?
そういえば、テレビで新製品の食品とかのCMを見たら、もう
既に家にあったなんてことはしょっちゅうだった。
私が通販CMで買いたくなくても、
スーパーとかではいいと、思っているように、
実演販売ではイヤだが、
テレビのCMで買うのならいいのかもしれない。
多分、もう面倒臭くて、通販で購入したその機械は使ってないだろう。
もちろんビデオもどこへしまったやら、
忘れてしまっているに違いない。
だけど、
何かどこかにそれがあるだけでいいのかもしれない。
使わなくても、それがあるからお腹はいつでもひっこむし、
髪の毛もひとりでカットできる。
そういう気持ちになるのがいいのかもしれない。
なんとなく、通販って、
夢を買う宝くじみたいなものかなあ、
なんて思うのだった。
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