"Love Love Love" 〜岩井ED〜 「・・・ごめんなさい。西園寺さん、七条さん。 折角の良い縁談ですけど、俺には、やっぱり・・・・」 「ああ、構わない。啓太が嫌なら、いやだとはっきり言ってしまえ」 「ええ。そうですね」 「・・・」 啓太の赤くなった瞳を、二人は問い尋ねるわけでもなく。 啓太の言葉を遮るように西園寺が言葉を発し、 それに続くように七条も同意した。 「ところで、啓太君」 「はい?」 「君は、帝との婚約が嫌なんですか?それとも、身を固めるのが嫌なんですか?」 「・・・え・・・・、と」 七条の問いに。 啓太が言葉に詰まる。 だが、それで七条達には合点がいったようだ。 温かな、笑み。 そう。丁度あの人のような、慈愛に満ちたもの。 暖かい・・・なぁ。 緊張がほぐれたのか、ほぅと啓太がため息を吐く。 身を固めるのが、嫌なわけじゃない。 帝との婚約の話も、見に余る光栄。 では、何が嫌なのかと聞かれてしまえば、 やはり、帝が彼ではないことだろうか。 好きな人と、婚約したい。 それは、誰もが望むこと。 そして、結ばれたいのは、やはりあの人。 「・・・俺、帝との婚約が嫌だとか、身を固めるのが嫌だとか、そういうんじゃないんです」 「・・・はい。わかってます」 「でも・・。でも、帝はやっぱり、あの人じゃないから・・」 「・・はい」 七条が、ゆっくりと頭を撫でる。 暖かい。 あったかい、けど、だけど、違う。 やっぱり、自分は彼のぬくもりをただ欲しているのだ。 「啓太君。無理はしないでください」 「・・・そうだ。私達はお前を縛り付けたいわけではない。お前の望む通り、やれるだけやれ」 「望む・・・通り・・」 「僕らは、啓太君の望む通りに動きます。君が、願うことを叶えるために」 願う、こと。 だけれど、七条達に叶えられることではないのだ。こればかりは。 仕方ない。 啓太が、七条の腕の中、懸命に笑みを作る。 「大丈夫です、七条さん。今は、まだ。何も願いはありませんから」 「・・・啓太君・・・」 そんなに自分は頼りないのか、と。 七条が啓太に尋ねようとすると。 ぱたぱたと、軽い足音をさせて女が入ってくる。 七条の式神である。 啓太が居るため、この屋敷には人の出入りは基本的にさせられない。 だが、式神は七条の命ならば絶対だし、人件費もかからない。 よって、使いは大抵、七条の式神なのだ。 式神が、七条を見つけ、礼をする。 「・・郁。来客のようですよ」 「・・・客?」 「ええ。どうやら、知らない人のようですが」 「・・・知らない人・・・?どういうことだ、臣」 「さあ。それは、拝見してみないことには」 西園寺が立ち上がり、七条も習う。 そして、七条が啓太に手を出した。 「・・・え・・?」 「僕も郁も知らない人ですが、切羽詰ってるらしいんです。 啓太君の、お知り合いかもしれませんよ?」 「・・・でも、もし違ったら・・」 「啓太君。僕の勘はね、結構当るんです」 ぱちりとウインクをして。 もう、どうでも良くなり、啓太も笑って、七条の手を取り立ち上がる。 長い、廊下。 西園寺家の子供なのにも関わらず、初めて歩く。 七条が歩くと、周りの人(式神)が頭を下げるのが妙にこそばゆい。 大きな玄関。 見上げるほど・・・とまでは言わないが、多分豪華な部類に入るだろう。 はぁ・・・と感心していると、ドアが開く。 「岩井さん!」 「啓太」 表に立っている人物を見て、啓太が抱きつく。 「どうしたんですか!急に・・」 「啓太が・・・、西園寺の子だと聞いたから」 「だからって・・・だからって、来なくても・・・」 「・・・来たら、迷惑だっただろうか・・・?」 「迷惑なんかじゃ!そんなこと、ありません!」 思い切りかぶりを振り、とにかく岩井を部屋に通す。 七条と西園寺は、笑顔で席を外した。 「・・・でも、本当に。どうしたんですか?」 「・・・先刻。啓太の言葉を、よく考えたんだ」 「・・・・考えないで下さい・・・」 恥ずかしいことをしたと、後々考えて顔を羞恥で赤らめたのだ。 出来れば忘れてほしい出来事である。 だけど、岩井にとってはそうでもないらしい。 「啓太」 「・・・はい」 「その、一言だけ。言いたかったんだ。それだけ言ったら、帰るから」 「あ・・・別に、帰らなくても良いんですが・・」 「啓太。・・・好きだ」 岩井の言葉を。 理解するまでに時間がかかる。 「・・・ずっと、好きだったんだ。啓太のことが。 元気が良い啓太を見て、ずっと、可愛いと思ってた」 「・・・岩井さん・・・」 「すまない。気持ちの押し付けをする気はないんだ。 ただ、一言だけ。言いたかったんだ。・・・じゃあ」 「・・・」 ぼんやりとしている間に、岩井が立ち上がる。 しゅるりと衣擦れの音が立ち、啓太がはっと我に帰る。 「岩井さんっ!」 着物の裾を掴んだのは、条件反射だ。 ・・・まあ、当然着物の裾を掴めば、こける。 岩井だろうが、西園寺だろうが。七条あたりは避けそうだが。 少なくとも、岩井はこけた。 「・・・」 「あ・・・ごめんなさい・・」 「・・・いや・・・構わない・・・が・・」 さすさすと鼻の頭をさする。 中々痛そうだ。 大丈夫ですか、と、啓太が覗き込む。 「・・・でも、岩井さんが、急に行っちゃうのが悪いんです」 「・・俺が・・・?」 「俺、岩井さんのこと、さっき好きだって言ったのに・・・。岩井さんより先に言ったのに。 何で岩井さん、そこで帰っちゃうんですか?」 「・・・それは・・・気の迷いかと・・」 「俺、ちゃんと考えられます!考えた結果があれだったのに・・。 岩井さん、俺の言葉、そんなに信用なかったんですか?」 「いや、そうじゃないんだが・・・」 「じゃぁ・・っ」 逃がさないとの意味を込めて、岩井を強く抱きしめる。 「じゃあ、俺の気持ちを置いていなくなっちゃわないでください。 俺も、岩井さんのこと、好きなんです・・」 「・・・啓太・・・」 おそるおそる、といった感じで啓太の後ろに回された手。 存在を確かめるように、きゅっと力を込める。 「・・啓太だって、俺に言ったまま逃げてしまったじゃないか。 だから、追いかけてきたんだ」 「・・・それは・・・。それは、岩井さんの困る顔が見たくなくて・・」 「俺も・・啓太の困る顔は、見たくなかったんだ」 「・・・じゃあ、お互い様ですね」 顔を見合わせて、笑いあった。 「・・その・・本当に、良いのか・・?俺で・・・」 「岩井さんが良いんです。岩井さんが・・。じゃなかったら俺は、こんなに悩まない・・・」 「啓太・・・」 啓太が、唇に触れる。 少しだけ触れたそこから、口づけが深くなっていく。 「・・・好きだ。啓太」 ただ、岩井の囁きが。 啓太の耳に、落とされた。 +++++++++++ 「・・・・」 「・・・え・・・と。あの・・ごめんなさい、窮屈・・・ですか?」 「・・・いや・・それは、構わないんだが・・・」 ここからは後日談となるが。 岩井は、西園寺家に入籍することになる。 啓太の願いは叶えたい。 だが、啓太を手放したくはない。 そんな矛盾した西園寺達の考えを考慮した結果である。 西園寺も七条も、今のところは満足らしい。 唯一、不都合があるのならば。 西園寺家という、肩書きだろうか。 河原を歩き、篠宮の神社で絵を描いていた岩井にとって、 西園寺の家は、大きすぎた。 どうしようかと思案している岩井の手を、啓太が取る。 「・・・啓太?」 「外、行きましょう。岩井さん!」 「え・・・?」 「岩井さんは、外の方が似合ってます。で、疲れたら篠宮さんの神社に寄りましょう。 夜になったら、戻ってくれば、西園寺さんたちもきっと許してくれますから」 「お・・おい、啓太・・」 「ね」 手を引かれ、歩きだして。 にっこりと笑われれば、岩井も強く言えるわけがない。 啓太に釣られるように、岩井も微笑む。 啓太がいるのなら、この生活も、きっといつか慣れるだろう。 そんな希望を抱きながら。 ○END○ ●あとがき● 岩井さんですー・・・。 全く行動を起こしてくださらない方だったので、 まったくもーこの子はどうしてやろうかと・・・。 啓太に動いていただきましたが。 七条にも動いてもらって、やっと話が成立。 うううう・・・。 べ・・・別にギャグを目指したわけではないのですが・・・ね・・・。 5番目、岩井ED。 どうでしょうか。 |