"Love Love Love" 〜成瀬ED〜 「・・・成瀬・・さん・・」 一番最初に思ったのは、あの人だ。 知り合った人間の中では、一番付き合いの短い人。 だけど、いつでも自分の側に居てくれた。 全身で、大好きだよと伝えてくれた人。 本当のことを言えば、自分だって惹かれている。 啓太だって一目惚れだったのだ。 ガラス球のように澄んだ瞳と、陽の光を反射する金の髪を見た瞬間、 きっと、あのとき、成瀬に見惚れていたのだ。 だけど、成瀬の愛情表現には慣れなくて。 つい照れが入ってしまい、言えないんだ。 申し訳ない気持ちはある。 だけど、つい照れてしまう。 帝からの求婚。 すごくすごく有難い話だけど。 だけど・・だけど、自分はあの人と居たいから。 帝の側へ行けば、贅沢は出来るだろうけど。 もう、あの人のいる空間へはいけなくなってしまう。 それだは・・・・嫌だ。 ぽつぽつと歩きながら、 相談したいと思ったのは良いが、さてどうやって相談しようかと思う。 神社へ行かなければ会えないだろうが、 神社には他にも人がいる。 男の身で嫁がされるというのは、あまり言いふらしたい内容ではない。 ふぅ、とため息をついたその瞬間。 「啓太!」 明るい声と共に、背に負ぶさる体重。 「な、成瀬さんっ」 捜し求めていた人物が現れたことにより、啓太が動揺する。 が、勿論成瀬がそんなものに頓着するわけもなく。 頬を摺り寄せてくる。 「すごいラッキーだよ、今日は。啓太と二人っきりだなんて」 「え・・・あ・・・そか」 成瀬をそのままにして周りを見回せば、 まだ陽の照っている時間ではあるが、人はいない。 しかも神社でないから常に居るはずの彼等もいない。 二人きり。 相談するなら・・・今しか、ないのかな・・・。 「・・あ、の・・。成瀬・・・さん」 「何?」 「・・あの、俺の話・・聞いてもらって良いですか?」 「勿論だよ。啓太のための時間なら、いくらでもあるからね」 「・・はは・・」 だけどここで話すわけにもいかないから、と。 河原の下まで降りていく。 さらさらと流れる水面を見ながら、近くの石に腰掛ける。 「それで?啓太は何をそんなに困ってるんだい?」 「・・困ってるっていうか・・・。・・・俺、相談事って言いましたっけ・・?」 「啓太のことだよ?言わなくたって、顔を見れば大体わかる」 「・・・そんなもんですか」 「勿論」 自信満々に成瀬が頷けば、ああそんなもんなのか・・と思ってしまう。 まあ、成瀬が言わなくとも常日頃七条に思考回路を言い当てられているのだから、 やっぱりわかってしまうのかもしれない。 それで?と、成瀬が先を促した。 「・・・あの・・。あの、成瀬さん、西園寺家って知ってますか?」 「知ってるよ。帝の次に権力を持つ、丹羽家と権力を二分しているところだろう?」 「あ、えと・・多分。じゃあ、その西園寺家の一人娘の話は・・・」 「大層な美姫だって聞いてるけど。 西園寺と七条が随分過保護に守ってるから、 あながち間違いじゃないんじゃないかって僕は思うんだけど」 「間違いなんです」 「・・・何が?」 「全然、美姫じゃないんです。西園寺さん達が守ってくれるのだって、 俺が、魔の類に魅入られやすい体質だからってだけで・・・」 「啓太?」 「その、噂の美姫って、俺のことなんです」 「なんだって?」 成瀬が、きょとんとする。 「俺の存在は、そのうち神に魅入られて、連れ去られちゃうから早く死んでしまうって。 俺を死なせないようにするには、俺という存在を、隠さなくちゃいけなかったんです」 「それで・・・。啓太は、女の子だってことになってたの?」 「はい・・・。あの、黙っててすいませんでした・・・」 「全然。僕は、そんなことじゃ啓太のことを嫌いになれないから」 「・・・」 少しだけ、啓太が頬を染める。 成瀬が、さらにその先を促した。 「・・・それで。俺、嫁ぐことになったんです」 「誰に!?」 「偉い人に・・・。俺、嫁ぎたくないんです。本当は。 でも、西園寺さんたちに迷惑かけっぱなしだから、縁談くらいは・・・とも思うし・・・。 俺、どうしたら良いかわかんなくなっちゃって・・・」 「それで、僕を頼ってくれたのかい?」 「・・・・はい・・・」 啓太が視線を落とす。 話してみれば、なんとどうでも良い話なのか・・・。 こんなことを話してしまって申し訳ない・・。 そんなことを考えていれば、感極まった成瀬に捕まる。 「な、成瀬さんっ?」 「っ、嬉しいよ、啓太!他の誰でもなく、僕を選んでくれたんだろう?」 「えと・・・あの、はい・・」 「啓太が僕を選んでくれたなんて!嬉しくてどうにかなっちゃいそうだよ」 「あ、のっ。成瀬さん・・・」 成瀬の胸に押し付けて、呼吸がままならない。 それを訴えているのだが、中々興奮は収まらないらしい。 「有難う、啓太」 「有難う・・って・・」 「篠宮でもなく、遠藤でもなく、この僕を頼ってくれたんだから」 「・・・そんなの・・・今の俺にとっては、当たり前です・・」 「・・え・・?」 今度は顔を見られたくないので、成瀬の服に顔をうずめる。 ・・まあ、耳まで熱いから、意味がないかもしれないけれど。 「・・・あの・・。俺、も、成瀬さんのことは好きだったんです」 「・・・啓太?」 「成瀬さんを見たとき、俺の方こそ一目惚れしてたんです。 ・・・恥ずかしくて、言えなかったけど・・・」 呆然と、突っ立つ成瀬。 ああ・・・やっぱり、こういうことは言われたら迷惑なんだろうか。 そう、恐る恐る顔をあげていくと。 また、力強く抱きしめられる。 「もう、今日は最高の日だよ、啓太!」 「な・・成瀬さんっ」 「啓太から、こんなに可愛い告白が聞けるなんて、思いもしなかった! 啓太、大好きだよ。愛してるっ」 「成瀬さん、わかりましたから・・・っ」 ふにゃぁ、と啓太が暴れるが、流石武官というべきか、そんなことじゃ外れない。 成瀬が離してくれるまえ、待つしか無さそうだ。 暫く経って、やっと落ち着く。 落ち着くと、でも・・・と、真剣な顔になった。 「でも、ゴメンね、啓太。折角僕を頼ってくれたのに・・」 「え・・?」 「僕だって、啓太を嫁がせたくなんてない。 それに、啓太が行きたくないなら、行かなくて良いんだよって言ってあげたい」 「成瀬さん・・」 「でも、僕にはそれを促すことしか出来ないんだ。 西園寺の家の実情まで詳しく知らないしね。 実際、僕が西園寺にそれを言ったところで、無視されるのがオチだと思う。 だけど、西園寺よりも権力のある人のところへ嫁ぐのを、 僕なんかの一介の武官は阻止できない。 ごめんね・・・啓太。 啓太のお願いは叶えてあげたいんだけど、僕には無理なんだ・・・」 ごめんね、啓太。 そう、すまなそうに言われてしまって。 啓太が慌ててしまう。 「そんな・・・。成瀬さんに、そこまでやってもらうつもりじゃ・・・。 ・・元々、西園寺さんには、家のことを気にしなくても良いって言ってもらってたのに、 俺が、勝手に、家のこととか色々悩んでたんです。 ちゃんと、言ってみようと思います。帝の所へは、嫁がないって」 「・・・・あれ?啓太が求婚されたのは、帝なの?」 「え?あ・・はい。そうですけど・・・」 言ってませんでしたか?と聞くと、言ってないよ、と返される。 それから、成瀬が何度か納得するように頷く。 暫くして成瀬から送られたのは、満面の笑み。 「啓太。啓太は帝のところになんか、絶対嫁がせないからね!」 「え・・・?さっき無理だって・・・」 「帝が相手なら話は別だよ。啓太のために、頑張るからね」 「あ・・・有難う御座います」 「だから、啓太。代わりに、僕のところにお嫁に来てくれない?」 「へ?」 「僕を好きだって言ってくれるなら。お願い、啓太」 「お願いって・・そんな」 小首をかしげて、お願いされても。 そんな・・・成瀬さんのことは好きだけど、 だけど、嫁ぐとか、そういうことまでは、まだ・・・・・・・。 ++++++++ 結局、啓太は帝の家に嫁ぐことなく、 また、成瀬の家にも嫁いでいなかった。 啓太が困惑しているのを察知した成瀬が、 苦笑しながら、『ゆっくり考えてくれれば良いよ』と言ってくれたのだ。 おかげで、今日も日の光を燦々と浴び、 篠宮の神社で遊ぶことが出来ている。 夏の、木々が生い茂る中、氷を入れたバケツに足を突っ込み、スイカを頬張る。 「美味しーですっ、成瀬さん、篠宮さん!」 「啓太。それ、俺のなんだけど・・」 「だけど、運んだのは僕。冷やして切り分けたのは篠宮さん」 「・・・成瀬さん。俺に何か恨みでもありますか?」 「まあ、全くないとは言わないけどね」 「あ・・有難う、和希!」 ケンカを始める前に、啓太が口を挟む。 それにより、和希も満足したのだろう。 それ以上成瀬に構わず、啓太の元へ来る。 「ところで、啓太。婚約のことは考えてくれた?」 「ぶっ・・」 「婚約?啓太、婚約って何のことだ?まさか成瀬さんと・・」 「ち、ちがっ・・成瀬さんっ、そんなこと今言わなくてもっ!!」 「じゃあ、啓太はいつまで待ったら返事をくれるんだい?」 「二人きりの時に、ちゃんと言いますから!」 「っ、本当かい、啓太!」 「啓太っ!?」 「わ、あ、いや・・・っ」 成瀬を好きだという気持ちは変わらない。 変わらないけど・・・やっぱり、恥ずかしいのだ。 それに、和希の前で言われると・・・どうしても・・・。 困ったような視線を、第三者を決め込んでいる篠宮と岩井に向けるが、 自然と、つぃと逸らされる。 酷い、と訴えたけど、それも伝わってるかどうか・・。 「啓太っ。じゃあ、二人きりになろう!」 「成瀬さんっ!啓太、二人きりになっちゃだめだぞ、絶対!」 「・・・あーもう・・」 しゃり、とスイカを口に含み、答えないということをアピールする。 ・・・いつか。 そう、いつか、ちゃんと言おうと思う。 ちゃんと、貴方が好きですと。 貴方の元へ嫁ぎたいと。 だけど、今は時期じゃない。 いつか、成瀬の元へ堂々と入れるときまで、待っていてもらおうと思う。 きっと、成瀬なら待っていてくれるから。 ○END○ ●あとがき● 実は一番苦労した人。なるせゆきひこ。 彼のテンションの高いのが好きなんです。 真面目なときも好きだけど・・。 だけど、平安の設定だし・・・と(今更ですが)『ハニー』という言葉を使わないよう苦労。 ・・・成瀬じゃねぇっ!! 西園寺に続き、啓太と婚約できない人パート2。 でもまあ、成瀬さんは近い将来婚約するんだろうから、良いんでしょうが。 しかしまあ、随分和希が出張ってるなぁ。 6番目、成瀬EDでした。 |