"Love Love Love" 〜和希ED〜 「・・・西園寺さん。俺・・・帝のもとに、嫁ごうと思います」 「・・・それは、お前が決めたことか?」 「・・・はい・・」 決意を込めた啓太の瞳に、 西園寺はそれ以上何を言うわけでもなく。 大人しく、婚礼の準備を整え、日取りを決める。 その最中、家を出ることもなく、和希と顔をあわせることもなかった。 十二単を着付けさせられる。 仕方ない。婚礼の場合の正装なのだから。 この場合、啓太が女役。 初めて着る十二単だが、胸が苦しくて重さはどうでも良かった。 「・・・啓太君。辛いなら、今からでも変更はきくんですよ・・?」 七条のその優しい申し出を、やんわりと断る。 和希に否定された自分。 ここに居ても、多分悲しいだけだろう。 ならば、帝の下へ拘束されていた方が良い。 「啓太。迎えの牛車が来た。布を被り、それに乗れ」 「・・はい・・・」 「・・・もう一度聞くが。お前は、この結末を本当に望んでいたんだな・・?」 「・・・はい・・・」 「ならば私達はもう何も言わない。 ・・・道案内は臣の式神がついている。 顔をあげて他人に顔を見せるなよ。 式神が消えたら、そこが帝の部屋だ。入って、顔をあげて顔を見せろ」 「その後の手はずは、帝が上手くやるようになっておりますので」 「・・・わかりました」 七条と西園寺に連れられ、玄関へ行く。 牛車へ乗り込み、窓のところに降りた御簾から漏れる光を見る。 がたがたと揺れる牛車は、乗り心地が良いとはあまりいえなかった。 はあ、とため息をつく。 和希と、ケンカしたままここまで来てしまった。 せめて・・・せめて、最後くらいは。 (最後くらいは・・・・仲直りしたかったなぁ・・) もう叶わないであろう願い。 その願いは、涙と共に、飲み込んだ。 ガタガタと、牛車が音を鳴らす。 +++++++ BR> 体温があるのかないのかわからない、手に引かれる。 式神とはそういうもので。 魔に魅入られやすい・・・つまり霊感の高い啓太だからこそ、 こうして式神と触れ合えるのが出来るのであり、 一般人は触れることすら出来ない。 冷たくもなく、暖かくもなく。 握った感覚だけがある手。 地面だけを見つめて、その手に導かれるまま延々と歩く。 ふいに、式神が止まる。 不安そうに見上げると、式神はそっと微笑み一礼する。 ここが、帝の部屋、なのだろう。 良い人だと良いなぁ・・・。 心の中で祈りながら、式神の開けた戸をくぐる。 それでも、見る勇気が出ず、下を俯いたままで居ると。 「西園寺啓太。顔を上げて」 「・・・・え・・・」 不意に、聞きなれた声が耳に届いた。 弾かれるように、顔を上げる。 「・・・か・・・ずき・・・?」 「そ。俺」 わけがわからないという顔をしている啓太に、少し遠いところにいる和希が笑いかける。 「・・・なんで・・・和希がここに・・・?」 「啓太が、西園寺出身だってことを隠してたように。 俺も、鈴菱・・・帝の家庭出身だってことを隠してたんだよ」 「何で・・・っ、何でそんなことっ」 「帝なんていったら、啓太は一緒に遊んでくれないだろ?」 「・・・」 そんなことないと、言い切れない自分が歯がゆい。 「本当のことを言えば、啓太が西園寺の子だっていうことは知ってたんだ。 啓太が女でいる事情も、西園寺君達からも聞いてたしね。 ただ、啓太が言わなかったから触れない方が良いと思ってたんだ」 「でも・・でも、俺が相談したときに言ってくれれば、 それなら、俺は悩まなくても良かったのに・・」 「・・そこで言って、拒否されたら落ち込むからな・・・」 「そんな・・・。俺、すごい悩んで・・・和希に嫌われたかと思って・・・」 「・・・ごめん、啓太」 いつのまにか近づいてきた和希に、そっと抱きしめられる。 「ごめん、啓太。そんなに悩んでるなんて、思わなかった・・・」 「俺・・和希だったら、断らなかった!和希じゃない人のところに嫁ぐので、 どうしようかと・・・思って・・・」 「ごめん、啓太・・・」 「ごめんじゃ・・ない・・・」 「・・・だけど、どうしても啓太を手に入れたかったんだ・・。 ほら、啓太って、俺と対等に話してくれただろ?嬉しかったんだ、あのとき。 あの後、篠宮さんとか岩井さんに会って、楽しかった。 だけど、やっぱり啓太と二人きりでいるときが、一番楽しくて。 啓太が好きだったんだ。・・・ごめん、啓太。泣かせて・・・」 「・・・」 和希の言葉に、啓太は答えられない。 「帝の立場を利用すれば、きっと啓太は来てくれると思ってた。 だから、相談されて、俺も焦ったんだ。 もしかして、来てくれない可能性もあるんじゃないかって・・」 「・・・・そんな・・・」 「翌日も、その次の日も。啓太は外に出てこなくて・・・。 嫌われたんだと思って、凄い不安だった・・・。 ・・啓太・・・。騙してた俺を、嫌いになるか?」 不安と恐れの入り混じった声。 余裕のないそれは、いつもの和希の声ではない。 「・・・嫌いになんか・・なれない」 「・・・啓太・・」 「俺だって、和希に嫌われたんだと思って、心配した。 和希こそ、あんなに言った俺を、まだ好きでいてくれる?」 「当たり前だろ。じゃなかったら、縁談は断ってる。 遠藤和希が嫌われても、帝としての鈴菱和希の名前で押さえ込もうとしたんだ。 それなら、啓太は嫌でもいなくちゃならないから。 ごめんな、啓太。悩ませて・・・。泣いたんだろ?」 赤くなっている啓太の瞳に、そっと和希が口づける。 羽根の触れるようなキス。 「泣いて・・ないよ」 「・・・そうか」 「うん。泣いてない」 そうか、ともう一度笑って、 今度は額に口づける。 「ごめんな、啓太。もう絶対不安がらせないから」 「泣いてないって・・」 「好きだよ」 「・・・俺だって好きだよ」 「・・そっか。良かった」 「・・・ん・・・」 羽のようなキスを、啓太に降らせる。 だんだん、瞳がとろんとなっていく。 笑いながら、最後に唇にキス。 それから後は、秘め事を。 ++++++++ それから、二人の生活は対して変わったところを見せなかった。 帝の屋敷だからか、西園寺達はしばしば訪れ、 仕事をこなす最中、和希が暇が出来たら外へ出て、篠宮の神社へ向かう。 そこには必ず岩井がいたし、当然篠宮も居る。 成瀬は和希直属だったらしく、あーあー、と残念そうな顔をしていた。 はぁ、と、幸せそうに啓太がため息をついた。 数日前からは思えないような幸せっぷりだ。 特に、和希とずっと居られることは、幸せ意外に他ならない。 やおら、スパンと襖が開いた。 「・・・和希?」 「・・・啓太・・・。逃げるぞ」 「へ?」 「良いから早く!」 きょとん、としている間に手を取られる。 「鈴菱!仕事をこなせ」 「西園寺さん。七条さん」 「だれが仕事の邪魔をしたんですか! 七条さん、屋敷を守る護衛に魔を向かわせたでしょう!大変なんですようちの護衛たち!」 「それで貴方の仕事能率が下がるとは思えませんが・・・」 「普通下がるでしょうが! 新しい護衛も探さないといけないし、貴族達の不安も取り除かなきゃならない。 やってられるかっ!」 「だって、それは・・・啓太君を僕らから奪った報酬、ということで」 「んな報酬いりません!」 「お前が逃げるのはどうこう言わないが、啓太は置いていけ。話すことがある」 「啓太を置いていったらあんた達、持って帰るでしょうがっ!」 「おや。わかってらっしゃる」 ぶち、と和希の中から何かが聞こえたのを、啓太が確認する。 ぐん、と、手が強い力で引っ張られ、走る。 「おい、鈴菱!」 「か・・・和希、良いの?西園寺さんたち」 「いーんだよ、あんなの秘書にやらせとけば!大体、一週間だぞ一週間。 一週間もお前とゆっくり話せてないんだ。やってられるか!!」 「・・・もー・・・・和希ってば」 ともすれば、ちょっとだけ我侭な帝。 だけど、一週間も公務室に拘束されれば、鬱憤も溜まることだろう。 (それはまあ、啓太を嫁に迎えたことによる七条たちの軽い苛めであるのだが) 仕方ないなぁ、と、啓太が苦笑い。 「急げ啓太!」 「わかってるよ」 どうせ、篠宮たちの神社に行くのだ。 行けば、成瀬が迎えに来るのがわかってるのに。 こけないように、和希のペースにあわせて走る。 和希には悪いかもしれないけれど・・・。 あまりに幸せで、笑みが漏れる。 何笑ってんだよ、という和希の問いかけには、苦笑いで答えた。 ○END○ ●あとがき● やっぱり、彼が帝でなければ可笑しいですよね。 というわけで、和希EDでした。 甘い・・のかな。よくわからないや・・・。 ああもう、和希が可哀想・・。 パソコンとかサーバー塔とかがない時代ですが、 七条の和希苛めは健在のようです・・・。 ちなみに、七条さんは別に怪我させたわけではありません。 ただ、呪いをかけて一週間近く眠っていただいているだけです。 和希以外には迷惑をかけない悪戯を・・・と考えた結果(笑) だって、彼等が啓太を取られて黙ってるはずがないじゃないですか。 和希EDは8番目です。 さて、7番目は何処に行ったのでしょうか。(笑) 分岐点というリクエストで、出来るだけ話を短くしようと努力しました。 おかげで内容薄・・・(自主規制) だけど、これ以上書いたら絶対読んでて途中で飽きるので。 ていうか、この長さでも飽きられるんじゃないかと・・・。 全部で、一応25ページくらいですね。 ・・・長編にしたら25話もってことですよ(笑) お疲れ様でした。 このお話は全部揃えて淡桜様へ。 リクエスト申告、有難う御座いました! |