[ 甘い恋人は好きですか? ] 





西園寺郁。

この学園の、"女王様"である。 この学園の女王様と称されて、

最初はムカついていたもののもう良い加減怒りつかれた感がある。



その女王様は、関係のない人間から見ればかなり気紛れで、

だけれどもその容姿の美しさのせいでその我侭さえも許容してしまえるところがあって。

七条臣という名の騎士を従えているところも、

それはそれでなんだかとっても『らしい』くって。

人間業じゃないくらいクールで綺麗で美人で。

こう・・・悩むとかそういうことにはすごく疎そうで、

恋愛、なんていったらもっと疎そうで。



・・・その・・筈、であったわけなのではあるけれど。



勿論そんな他人の決めた枠にきっちりと彼が収まるわけもなく。

現在女王様は、可愛らしい恋人と楽しい毎日を暮らしたりたまに悩んだりと、

大層人間らしい生活を送っている。



「おーみ」



その『悩む』原因の8割方を占めるのは、

元"ナイト"を名乗っていた幼馴染のたくらみだったりするのが切ないところだ。



「はい。なんでしょうか」



郁の下僕と名乗っていた幼馴染は、いつしか郁の恋のライバルとやらにとって変わっていて。

にっこりとした笑顔で、紅茶と茶菓子の入っているお盆を机の上におく。

わぁ、と小さく喜ぶのは啓太だ。



「・・・啓太は私のものだと言ったはずだが?」



相変わらず飄々と啓太に手をだす七条を怒鳴りつける。



「ええ。ですが、相手は郁ですから」

「どういう意味だ!」

「色々な意味です」



すごんだところで、所詮は女王様。

しかも相手は七条だ。

下から睨みつけても迫力がない。

まざまざと身長差を見せつけられ、ぐっと悔しがる。



「伊藤君。今日のお茶菓子は定番のショートケーキにしてみたんです」



その隙に、七条はコロリと態度を変え啓太に向き直る。

盆の上には餌付け用の啓太の好物が乗っかっていて。



「うわぁ・・・すごい、美味しそうです!」

「ふふ。でしょう?美味しいってとっても評判なんですよ。

伊藤君も喜んでいただけると思います」

「はい!有難うございます、七条さんっ」

「いえいえ」



きっちりと餌付けされてしまう啓太は、目を輝かせてケーキを見た。

やけに嬉しそうだ・・・。

仕方ない。愛しい恋人である啓太もそろそろ憎たらしくなってきた元幼馴染現恋敵も、

甘いものが大好きなのだから。

西園寺だって、啓太が一番好きだというイチゴ等の果物の甘味ならば許容するが、

必要以上に生クリームが入っているものなど食べられたものではないと思う。



最近は妙に慣れた匂いに、それでも少し辟易する。



西園寺の恋人である啓太は、啓太の恋人でない七条と同じものが大好きだという。

話も七条の話は噛み砕いて柔らかくしてから説明するせいか、分かりやすいのだという。

自分の話は精一杯頑張って聞いてわかろうとするのに、

七条と話しているときは大抵笑顔だ。

・・勿論、精一杯頑張っている啓太も十二分に愛らしいのだが。

身長だって啓太と同じほどしかない。体力は多分3分の1以下でしかないだろう。

力だって全くない。全くと言っていいほど、のレベルではない。全く無いのだ。

顔立ちは母親譲りであるし、他人の意見から総合しても一般以上に美しい・・・のだろう。

が。

それ以外に啓太を繋ぎとめるための"魅力"がない。

それについて人が悩んでいるのを知っていて、七条はわざわざ突っついて挑発するのだ。



苛々とした心のまま七条を睨みつけても、七条は飄々とした笑顔で交わすのみ。

どころか。やけに嬉しそうに啓太の顔をにこにこと見つめているわけで。

それが更に苛々させる。



「・・・・あ、でも」



不意に、啓太が何かに気づいたように小さく声をあげた。

何事かと西園寺が啓太を見、七条が小さく眉をあげる。



「西園寺さん・・・えと・・・大丈夫、ですか?」

「・・・」

「・・・・・・」



覗き込むように聞いてきた啓太の問いに、一瞬虚をつかれたが。

だがすぐ後に、ふっと西園寺が笑いかける。

生クリームの匂いが部屋に充満していることに気づいての言葉なのだろう。

わざわざそれを狙う悪魔とは正反対で、やはり啓太は愛しい。



「ああ。構わない」

「・・・そう・・・ですか?」

「お前は好きなんだろう?」

「でも西園寺さんは・・」

「私は、啓太が笑っていればそれで良い。

啓太が好きなものを食べれば良い。別に体を壊すものでもないのだから」

「・・・」



最後に『本当に?』といった感じで啓太が西園寺を見るので、

顎でケーキを指して好きにしろと無言で言ってやる。



嬉しそうにケーキを持つ啓太が可愛らしくて仕方が無い。

ふふと笑う七条も、同じことを思っているのだろう。



「可愛いですねぇ」

「可愛いだろう」

「はい。とても」

「・・・やらないぞ?」

「残念です」



ひょい、と肩をすくめた七条に、西園寺がゆったりと足を組みなおして余裕を見せる。

啓太が自分を気にするというその一点だけで機嫌を直すのだから、

うちの学園の女王様とは随分単純なのだと、七条が呆れたようにため息をついた。



「伊藤君のことをあまり苛めちゃだめですよ、郁」

「ふん。そっくりそのままその言葉をお前に返す、臣。

啓太を苛めるなよ。私のものだ」

「・・・さぁ。どうでしょう」



相変わらず喰えない笑顔を振りまく七条に、ふんと鼻を鳴らす。



「啓太。お前は私が好きだろう?」

「っへ?」



唐突な言葉に、啓太が思わず素っ頓狂な声を上げれば。



「違うのか」



一気に西園寺の声が不機嫌になってしまい、慌てて啓太は左右に首を振った。

嫌いだなんて、そんなことはない。



「俺、西園寺さん、大好きです!」



そういえば、西園寺は酷く嬉しそうに笑うから。

啓太も安心したようにほわほわと微笑する。



仕掛けられるのは、紅茶の味のするキスだ。



「甘いな」

「だ・・だって、ケーキ食べてたんです」



西園寺の目を見て、仕方がないと言い張る啓太を、

西園寺が悪戯子の光を込めた瞳で見つめる。



「ケーキだけの甘さならば、良いんだがな」

「っ」



唇を撫でられ、啓太の熱が上がる。

やれやれと肩をすくめた七条を、早く出て行けと無言で促す。



今日のところは負けてやるかと、七条が苦笑して扉を閉めた。

扉の中で行われる秘め事を知るのは、本人達のみ。







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すー様のHP開設お祝いに贈らせていただきますっっ!
うわーん、遅くなりすぎましたっ!大変申し訳なくっ・・・思ってますちゃんと。
でもすー様から頂いたものも見せびらかさず、我慢してちゃんと書き上げました(笑)
どうぞお時間ありましたらお持ち帰りくださいませ。

何でも高嶺さんの書き易いように〜とおっしゃってくださって・・・。
ここはうちのサイトのメインである七条で行くべきか・・・!?と悩みましたが、
うちの西園寺さんが好きだとおっしゃってくれたので、郁ちゃんを召還してみました。
同時に何か変なものがついてきてしまい、えらいことになってしまいました・・・(涙)
折角好きだとおっしゃってくれていたのに、良いのかしらこんな郁ちゃんで・・。
まぁうちのスタンス的にはこんな感じなんですけれども。
甘いもの嫌いの癖して啓ちゃんには手ぇ出すんですねと、
七条さんと一緒に微笑して見守りたい。です。

扉の中の秘め事を、僕が知らないわけないじゃないですか。
なんて微笑って居て欲しい所存であります。誰がって誰が。
むしろ和希と覗いて、不器用ですねぇとか何か色々言ってるくらいでも良いと思います。
私は七条さんを何だと思っているんだろうかなぁ・・・・・。