だって、君は僕のもの。

それなのに・・・彼ばかりが知っている"君"があるのは、

不公平だと思いませんか?

だって僕はとても欲張りだから。

そして、君はそんな欲張りな僕も好きと言ってくれるから。



さぁ、伊藤君。

勿論僕に、見せてくれますよね・・?



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[ 子供の主張 ]



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ほくほくと笑みを浮かべた七条が、腕の中の小さな子供に甘ったるい視線を投げる。

何て可愛い。

何て、愛らしい存在。

子供なんて、五月蝿いモノでしかなかったはずなのに。

これが、彼だと思うと・・・。

頬が緩んで仕方ない。



(伊藤君は・・・怒るでしょうか)



怒るだろうな、とは思う。

だけど、好奇心と独占欲や執着心諸々を満足させるには、これしか方法がなかったので、

まあ、彼には我慢してもらうことにする。



「ふふ・・・」



時計がゆっくりと時を刻むのを、楽しそうに見つめ、

もう一度、腕の中の存在へ目を向ける。



「さぁ・・・早く起きて・・。その瞳で、僕を捕らえてください」



七条のそんな願いが届いたわけではないのだろうけれど。

子供の瞳が、ゆっくりと、広がった。



「・・・・・・お兄ちゃん・・・だれ?」

「おはようございます」



啓太のその言葉に。

七条が、実に満足そうに微笑んだ。




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それは放課後のことだった。

ふぅ。

西園寺が一つため息をつき、美味しい紅茶を口に含む。

・・・やはり、美味しい。

外を見れば、いつも通り空は青くて。



「美味しいですか?」

「はいっ」



そう、何だかいつの間にか『いつもどおり』になっていた会計室に漂う甘い香りも香ってきて、

いつもどおりの会話も続いている。



「ああ、頬についてますよ」

「ほお?」

「ほっぺたにね、クリームがついてしまってるんです」



そうやって・・・・甘ったるい会話も・・・続いていて・・・。



「郁。現実逃避は、ダメですよ」

「う?」

「ふふ。啓太君は、良いんです。ダメなのは、あのお姉さんですから」

「臣!!!」



それまで逸らしていた視線を、怒りのままぐるりと七条へ向ける。

いつもどおりの七条の膝の上には、小さくなっている啓太が座っていた。

年の頃ならば、5歳前後といったところか。

嬉しそうに懸命にケーキを頬張り、零しては七条がこまごまと世話を焼いている。

その光景を見たくなかったからこそ、わざわざ仕事用のディスクで紅茶を飲んでいたというのに。

啓太の大きくて丸い瞳が、西園寺を捕らえる。



「おね・・」

「私は女じゃないと何度言ったらわかるんだ、啓太!」

「郁。そう強く言ってしまうと、伊藤君が怖がってしまいますよ。

郁はただでさえ顔が整っているから、怒ると怖いのに」

「・・・・・っ」

「ねえ、啓太君」

「?」



小動物のような仕草で、きょとりと啓太が首をかしげた。

満足そうに七条が笑み、その額にキスを。

子供はくすぐったいとでも言うようにくすくすと肩をすくめて笑うだけだ。



「・・・・で」

「はい?」

「何がどうしてどうなって、啓太は子供になっているんだ?」

「海野先生のお薬を頂いて飲ませたので子供になってしまったんです」



元凶はにこにこと嬉しそうに微笑み、小さな体を抱きしめて喜んでいた。



「おまっ・・お前は!普通の啓太だけで満足しきれないのか!?」

「勿論、満足できますよ。伊藤君はそれはそれはとても可愛らしいですし、素直ですし。

でも、理事長の言葉を聞いているうちに、欲が出てきてしまったので」



欲が出てきたからといって恋人に薬を使うのか。

だが飄々としている七条に罪悪感の欠片もないのだろう。

ずきずきする頭を抱える。



「啓太君?」



とて、と啓太が七条の膝を下り、西園寺の顔を覗き込んだ。



「何だ・・・?」

「大丈夫・・です、か?」

「・・・」



いつにもまして大きな目でこっちを見るものだから・・・きょとんとしてしまう。

覗き込むためか、足についている手の小さいこと。

子供らしくふにふにした手にふくふくとした頬。

これは・・・



「ふふ。可愛いでしょう?僕の啓太君」

「・・・確かに・・・あの変態が自慢する気持ちも、何となくわかるな」



う?と首をかしげている啓太の脇の下へ手を滑らせ、そのまま持ち上げる。

体温が高いのか、妙に暖かい。



「・・・軽いな」

「いつもの伊藤君では、郁は持ち上げられませんからね。

郁、返してください」

「まあ少し待て」



さっきまで面倒やら頭痛がするやら色々言っていたのは誰なのやら。

抱き上げた啓太の頬を弄り手を弄る。



「啓太」

「はいっ」

「いい返事だな。啓太、臣のことが好きか?」

「七条さんのこと?だいすきですっ」

「ふふ。そうか」



額にキスをすれば、きゃぁと小さな声が喜びを表現した。

人懐こい。

西園寺もそれに気をよくしてか、肩まである長い髪をいじられても何も言わず微笑しているだけだ。



「キレイですねー。おれ、すきです」

「気に入ったか?」

「はいっ」



こてんとおでこをつけると、啓太が笑い始めた。

それに釣られるように西園寺もくすくすと小さく笑う。



「郁、まるでお母さんのようですよ」

「ならお前は父親か」

「僕は、伊藤君の恋人ですから。父親役は丹羽会長にお譲りします。

啓太君、いらっしゃい」

「はいっ」



てとり、と西園寺の膝から下り、啓太はまた七条に抱え上げられた。

そのまま七条が立ち上がる。

片手に啓太を抱き上げ、片手で鞄を掴む。

西園寺と啓太が戯れていた間に片付けたのだろう、七条と啓太の分の食器はすでになかった。



「啓太を私に見せびらかしに来たんだろう?何故帰るんだ」

「ふふ。十分見せびらかしたので、満足したんです。ね、啓太君」

「ねー?」

「郁の相手は、後でたくさんしてあげますからね。

さ、啓太君。帰りましょう」



きょとりとしている啓太のふくっらとした頬へそっとキスをし、

いつもより随分軽い体を抱き上げ、自室へと戻った。




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「うー・・・うー」



部屋に戻ってもずっとそうだ。

七条の髪を弄り、目を弄ろうとでもしているのだろうか、頬へ手を這わせている。

それを好きにさせながら、七条は時々瞳を閉じてくすぐったそうにくすくすと笑った。



「啓太君。何か、面白いものでもありましたか?」



つまるところ、今の啓太は小学生ということで、

そういえば子供に嫌悪感しか与えないんだったなこの容姿は、と思い出した。

普通の子供ならいいのだけれど、今の彼に嫌悪感を抱かれたらたまったものではない。

どこか他人事のように思いながら、

離すものかと抱きしめる手へかける力を気づかれない程度に強くする。



だが、啓太が言った言葉は、随分と予想外なもので。



「しちじょうさん、キレイですね」

「・・僕が?」



目を丸めた七条を置き、啓太は更に手を色々なところに這わせる。

泣き黒子が気になったのだろうか、小さな紅葉でそれに触れる。



「すごく、キレイです」

「好きですか?」

「はい!」



にこりと笑う啓太に邪気も邪念も下心も、それこそ何もないのだろう。

純粋な・・そう、純粋なだけのその気持ち。



「かみのけも、めも、すごい、キレイで・・・オレ、好きです」

「全く・・君という人は」

「ふ?」

「どこまで、僕を虜にしたら気が済むんですか?もう」



両頬を手で包み、瞳を覗き込む。

全ての人間が焦がれ手にしたいと望む空の青を湛えるその瞳。

それを捕らえると言わんばかりに、その瞼を閉じさせて一つ一つキスをする。



「大好きですよ、啓太君」

「?えっと、おれも好きです!七条さんのことっ」

「はい。有難うございます」



それでも、子供に手を出すような変な趣味はないから。

薬は1日しか効かないそうだから、

明日、ね。

僕の愛をたっぷりと注ぎましょう。

それまではただ大人しく、愛らしい君を愛でるだけに留めておきますから。










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ノゾミさまへ捧げます、子啓太×七条。
だ・・だって子啓太×七条でリクエストが来たんですもん(笑)
かろうじて七条×子啓太、そして何とか七条さんは手を出しませんでした。
・・・かろうじてまだ手を出してません。変態さんじゃなくなってます。ふぅ。
何かした方が良かったのでしょうか・・・(笑)
何かもう西園寺×子啓太のが楽だようと思いながらの七啓です。
子供の目線な子啓太を〜と最初おっしゃってましたので、
続編のような、そうでないような、微妙なスタンスをとってもらいました。

ノゾミさま、このようなものでどうでしょうか。
あとがきは除きまして(苦笑)、
ノゾミさまのサイト2周年と6万ヒットを記念して捧げさせていただきますッv
あれですね・・・2周年とかサイト開設とか(笑)おめでたい節目に、
フリー小説を飾らんでください(笑)
や、いいんですよ。いいんですけどね、こう・・罪悪感が沸々と・・・。
そういうわけですので、もらっちゃってくださいv
重ね重ね、おめでとうございました〜vv
いつもお世話になっております。