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[ ThankYou! My Dear ]




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明日は僕の誕生日だけれども、

別段それを気にしたことはなかった。

年を取るだけのその日は、別におめでたくもなにもない。

愛しい愛しい啓太の誕生日ならばそういうことに多大な感心を抱いているから、

可愛らしい笑顔を見るためにお祝いするのも良い。

それに・・彼がこの世に存在しているという、

ただそれに対する1年分の感謝をその日にするというのは、

とても、素敵なことだと思うから。



・・だからといって、自分の誕生日がそうであるかどうかは別というもので。

彼に言わせれば『そういう考え方はズルイ』のだろうけれど、

結局、どこからどう見ても僕という人間は可愛げはなくて、

君のように可愛がりたいとは、到底思えないので、仕方がない。



だから、誕生日なんてどうでも良かった。



「おーみ」



諌めるような郁の声に、だけど僕は気分を向上させることは出来ない。

僕を慰めてくれるのは、今は郁ではなく、彼の役目であるから。



「・・・臣・・・いつまでそうやって塞ぎこむつもりだ」

「・・・別に、そういうつもりはありませんよ・・・」



誕生日。

別にどうという日でもない・・・けれど。

だけど、僕の恋人は彼であるわけで、彼が可愛らしく僕のことを考えてくれるならば、

それはそれはとても嬉しいことである気がして。

郁が言うには『そわそわしていた』・・・らしい。



「誕生日を教えてなかったんだろう、お前は」

「わかってます」

「啓太だって用事があるんだ・・・本番は明日なんだから、構わないだろう」

「わかってるんですよ、郁」



そんな言い訳くらい、自分の胸の中でとうにしている。

それでどうしようもならなくなるのが『人間』というものなのだ。



『今日は用事があるから先に帰ります』



ごめんなさいっと頭を下げて、それを告げるためだけに啓太が会計室へ来たのが数分前だ。

いつも通り、彼の笑顔を見れると思っていたのだから、随分としょげる。

はぁ、と一つため息をつき、戯れに行っていたサーバー塔へのちょっかいを終了させた。

そちらに集中できると思ってやった戯れではあるが、やっぱり思考は啓太以外に向かないようだ。



「大体お前達、四六時中一緒に居て飽きないのか?」

「飽きません。だから、郁に啓太は貸しませんよ」

「・・」



明日は誕生日だということを伝えて、たくさん一緒に遊ぼうと思っていたのに・・・。

・・・残念です、啓太・・・。

勿論、明日の放課後から一緒に遊んでもいいんですけど、

それでは、数時間が無駄になってしまう。

予定では、今日の放課後から明日の夜までたっぷり遊ぶつもりだったのに。

どうしてどうして、彼は僕の予定を軽く覆してしまうのだ。

・・・勿論、そんなところも面白くて可愛らしい、彼のいいところなんですけどね。



「郁。僕は先に帰りますね」

「好きにしろ」



郁の許可を得て、何故かいつもよりも重たいカバンを掴む。

さて、今日はこれからどうするか・・・。

以前まで簡単に出来ていた暇つぶしすら出来なくなっている自分に苦笑する。

これでは、彼が居なくなったら何も出来ないようじゃないか。



「・・・まあ、実際何も出来ないんですけどねぇ・・」



それもこれも彼の愛らしい魅力が悪いのだと早々に責任転嫁をする。

一生かけてゆっくりと責任を取ってもらわなくては。

まあ、今日一日くらい何とかなるだろう。

また新しいプログラムを組むのも良い。

他に何か以前していたことは・・・本でも読んでいただろうか?

適当に部屋を漁れば何かしら出るだろうと、部屋の前まで来てドアノブへ手をかけた。

そして、下へ落ちていた紙に気づく。

何か書類でも落としてしまったのだろうかと慌てて拾い上げれば、

それは、一枚のカードだった。



『12時に部屋に来てください』



字は郁の方が綺麗だろう。

だけど、字の美しさはこの際問題ではない。

名前も書いていないそのカードのたった一言だけのメッセージは、

僕が大変見慣れた字体で。



「・・・啓太・・」



カードを親指でそっと撫ぜた。

・・・期待しても・・良い、ということですか・・・?

ねえ、啓太・・・?





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目の前にご褒美をぶら下げられているというこの状況では1時間がとても長くて。

・・・1時間どころか。1分、いや、一秒と時計が秒針を振るその瞬間すらも長い。

夕食もそこそこに、プログラムを作りながらも数分間に何度も何度も時計を眺めた。

彼の部屋までがこれほどまでに近いというのが、少し苦しい。

もっと遠ければ、早くついてしまったと言い訳が出来るのだけれど、

階段を降りるだけならばそんな言い訳は出来まい。

彼の指定は夜の12時。



しっかりと時計が11時59分を指したところで、席を立った。

そうなると今度は彼の部屋への道のりが随分と遠く見えるから、僕も現金なものだ。

歩きながら、腕時計を見て12時ジャストを待つ。

ふっと、目の前に何かひらりとしたものが揺れた。

腕時計から目を離し、そちらを見る。

あれは・・・。



・・・リボン?



慌てるようにそちらに歩を進めれば、そこは案の定彼の部屋で。



・・・どうしたって君は・・・・僕を捕らえて離さないんですね・・・。



ドアノブに可愛らしく結び付けられた綺麗なリボンをそっと解いた。

しゅるり、と微かな衣擦れの音が、誰も居ない、空調の音だけが響いている廊下に響いた。



時計を見れば、12時ジャスト。

ドアを叩く。

・・・ねえ、啓太。

僕の、想像通りで良いですか?

僕が思う通りで。



『――どうぞ。』

中から声がして、先ほどまでリボンのかけられていたドアノブへ力を込めた。

扉が開く。



「Happy Birthday!」



そこには、君が笑顔で立っていて。

箱を持っていて。

何故だか君は嬉しそうに笑って、箱を僕に渡した。

ドアノブにかけられていたのと同じリボンがかけられている箱。



「―ありがとう。啓太。」



ねえ、啓太。

こういうとき、僕はなんと言えば良いですか?

胸が一杯に詰まって、どうしようもないくらい幸せで、

泣きたくなる程のこの嬉しさを、僕はなんといって君に伝えれば良いですか?



一言しか言えない僕に、だけど君は嬉しそうに笑ってくれて。

ドアを閉めて、部屋へ案内される。

用意されたのは、手作りなのか少し不恰好なケーキと、シャンパンと。



「ケーキは、初めて作ったんです。

初めてだから、ちょっとかっこ悪いけど・・で、でも、ちゃんと美味しいはずです!!

食べられる材料しか使ってないし・・・!」



そうやって、僕のために頑張ってくれる君が。



「後、シャンパンは、西園寺さんに聞いた奴なんです。

七条さんが好きなの、紅茶じゃありきたりかな・・と思って」



・・・大好きで大好きで・・・仕方なくて。

嬉しくて。



「誕生日のことも、西園寺さんが教えてくれたんですよ。

七条さん教えてくれないから・・・」

「そうですか・・。郁も、困ったものですね。

僕にはそんなこと、一言も教えてくれなかったので、君に嫌われてしまったかと思いました」

「ま、まさか!!俺、七条さん驚かせたくて、一生懸命だったんですよっ。

西園寺さんは、俺が秘密にしておいてくださいって頼んだから・・西園寺さんは、悪くないんです」



君を恋人に出来たということが・・・嬉しくて嬉しくて・・・仕方なくて。

幸せで。



「そうなんですか?それじゃぁ・・啓太の計画は大成功ですね」

「本当ですかっ!?」

「こんなにびっくりした誕生日は初めてですよ。

勿論、こんなに嬉しいのも」



君が僕を探してくれた、愛してくれたということが、

幸せで幸せで・・・仕方なくて。



言葉に、出来ない。



二人にしては少し大きめなケーキだけれど、

それは僕達であるから。

食べて、食べさせて、食べあって。

時折シャンパンを口に含んで口休めをして。



星の輝きを見ながら、二人のささやかなパーティー。

何て、素敵なんだろう。



ポケットへ畳んで入れていたリボンを取り出した。

ドアノブにかけられていたリボン。

ねえ、啓太。

僕の好きなように解釈しても良いですか?



リボンに軽く口付けて、君の左手を取って、、薬指へ巻きつけた。

少し長めだから、ぐるぐると。

薬指がリボンの色に染まっていく。

最後に両手を使ってリボン結びを。

啓太が真っ赤になって、笑った。



「・・・良いんですか?」

「・・当たり前です・・・」



どちらからともなく、甘い甘い口付けを。

リボンはすぐに解けてしまうから、今度は簡単に解けない指輪を贈らせてください。

永久に、解けないように。



だけど、その前に。



これからの一日を君と。

勿論、構いませんよね?

君のような人が、僕を見つけてくれて、僕をこんなに愛してくれて。

心からの感謝の気持ちを君に。



Thank You !My Dear・・・





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実はものすごい一生懸命素材を探してみました(笑)
そしたら素材探しに時間を費やしすぎました・・。
リボンの素材が欲しかったのですけれど、案外とないものですね。
確実に、文字を書いているときより素材を探してる時間の方がかかってます(大笑)
イメージとしては、もう少し淡い色なリボンなのですが・・。
まあ、リボン色の指定がなかったので、本編中も一応ぼかしてはいるんですけどね。

と、言うことで。
りゅうか様が小説BBSへ投稿してくださった『My Dear』の続編というか臣サイドというか。
を、書かせていただきました!
とりあえず捧げ物扱いで(笑)もらってください。
本編で『啓太』と呼ばせていたので、こちらでも啓太と呼ばせていただきました。
何だかとても新鮮な気持ちですね・・。
しっかし・・人様のお話の続きを書くというのは・・・こう・・。
りゅうか様の大変素敵なお話の雰囲気を壊さないようにと、終始びくびくものでした(笑)
これで・・・良いのでしょうか。
よ、予定ではもう少しギャグテイストになるはずだったのですが・・・。
七条さんが予想以上にしょげました・・・(苦笑)
頭にリボンでも結んで始終いちゃいちゃしてもらう予定だったんだけどなぁ・・・・。
どこで道を謝ったのでしょうか・・・とても不思議。
りゅうかさまに気に入っていただければ幸いでございます。
びくびくどきどきものでしたけれど、楽しかったですv
また何かありましたらこっそり誘ってください。簡単に乗ります(笑)
リボンを指に巻くのは、子供の頃よくやりませんでした?
子供の頃といわず、私は今でもやるのですが・・・(笑)
そんな感じのをイメージしてください。
啓太の指が曲がらなくて大変ですが、
どうせ七条に掴むかシーツに捕まるかしかしないので、指一本くらいください(待って)
朝起きたらそのリボンは七条さんによって大切に保管されていることと。