[キミのKnight] 俺は、学習能力がないとよく言われる。 中嶋さんを筆頭に、歯に衣着せぬ物言いの西園寺さん、 妙に過保護な和希。 それに、俺の・・・その、恋人である七条さんも、 たまーになんっかそういう目をしてるんだよ・・。 勿論、優しいあの人は、俺が傷つくことを知っているから言葉にはしないけどね。 確かに、傷つくと思うよ。 誰だって学習能力がないと言われちゃえばさ。 ・・・・だけど。 自分で自分を卑下することは何だか好ましくないようなことを西園寺さんが言っていた気がするけど、 俺は今堂々と胸を張っていえるよ。 俺は学習能力がないって・・・。 卑下してるんじゃないんです、西園寺さん。 ・・・ホントに俺、学習能力ないんです・・・。 涙を呑んだ啓太が、ぱこんと目の前の書類にハンコを押す。 ・・・本とは会長印なんだけど、それは内緒ってことで。 これは今日中に会計部に持ってかないとならない仕事なのに、 王様は現在未だ逃げ回っている。 中嶋さんの許可を貰っているのだし、大丈夫だろう。 ていうか中嶋さんが言ったことをやってるわけだから、俺は何も悪くない。 新しい書類を見て電卓を叩きながら、啓太はもう一つ浅いため息をついた。 「さっきから鬱陶しい」 目の前に座っている中嶋の冷たい視線が啓太を射抜く。 「何が不満だ?お前から手伝うと言った癖に」 「・・そうなんですけどね・・・」 珍しく中嶋に下手に出られ。 生徒会へのお使いによく出される啓太は書類の惨状を知っているし、 たまーに手伝いをする身としては大変さも身をもって知っている。 極めつけは、『会計部に提出する書類が未だ終わっていない』 知ってる。 中嶋さんがすごーく悪知恵の働く人だって。 すごーくすごーく口が回る人だって。 勘違いしないで欲しいのだけど、中嶋さんは別に、嘘をついたわけじゃない。 ただ・・・会計部に提出する未だ終わっていない書類は、 全ての書類のうちの5分の1程度しかなかったというだけ。 騙された。 思ったところでもう遅く。 いつもいつも会計部のことを餌に連れて行かれるのに、 ほんとーに俺ってば学習能力がない。 「はう・・・・。・・・王様、どこにいるんでしょうねぇ・・・」 「知るか。丹羽に聞け。 全く・・・お前を餌にすれば釣れると思ったんだが、とんだ勘違いだ」 「ちょ・・・人を役立たずみたいに言わないでくださいよ。 しかも餌って・・・」 「餌なら餌らしく少しは美味しそうにフェロモン撒き散らせ」 「何無茶言ってんですか・・・。もう」 はう、とため息をつきながら、啓太はまた確認印を押した。 ++++++++++++++++ 「・・・結局七条さんに会えなかったな」 はぁとため息をついたが、会計部の業務はとっくに終わってしまっているだろう。 夜ご飯を食べに行ったときに会えると良いなと微かな希望を抱きながら、 啓太は自室の扉を開けた。 「おや。もう諦めてしまうんですか?」 一人部屋の啓太の部屋に声が響いた。 「・・・・・・・・・・・・・は?」 「お帰りなさい、伊藤君」 にっこりと笑って部屋に(何故か)いるのは七条で。 持ち込んだパソコンで何かしていたのだろう、ノート型のそれを閉じ、 立ち上がりゆっくり啓太の側へ近づいてきた。 「し・・・七条さん、何で・・」 「そうですね・・。伊藤君と会えなくて寂しかったからでしょうか」 茶化したようなその言い方だけど、本音がふんだんに盛り込まれている。 なんとなくだがそれに気づいたのだろう、 唇に微かに落とされるキスを甘受する。 「今日は来てくれると思って待ってたんですよ」 「あ・・・すいません」 いつも放課後は会計部に顔を出していたから、来ると思ったのだろう。 しゅん、と悲しそうな目をする七条に啓太がホントに謝る。 ・・・啓太は別に会計部員ではないはずなのだが・・・。 「どうしたんですか?今日は」 「え・・・」 唇を何度も掠めながら、七条が尋ねてくるが、 その問いに啓太が固まった。 生徒会に捕まったなんて言ったら、怒られるんだろうなぁ・・・・・。 「えーっと・・・」 固まる啓太に、七条がふふふ・・・と息で笑う。 「今日会計部には伊藤君の代わりに、今日は丹羽会長が来てしまいました。 似ても似つかない人で・・・本当に残念でしたよ」 「え?王様、会計室にいたんですか? 何だ・・・だったら会計部に行けば良かった」 「何が良かったんですか?」 「だって、俺が生徒会業務を手伝うよりも、王様が直接やった方が良いじゃないですか。 結局俺、今日王様がやるはずだった仕事の半分くらいしか終われなかったし・・・」 そうですか、なんて微笑する七条に、ふ、と啓太が気づいた。 ・・・あれ?もしかして俺、余計なこと言っちゃった? 「やっぱり生徒会の方をお手伝いしていたんですね」 「あーうー・・・。 だ・・だって、会計部に持っていく書類が終わってないって・・・」 「あの人と二人きりの部屋で・・怖かったでしょう?」 今は七条さんの方が怖いです・・・。 勿論そんなことは言えまいが、ゆっくりシャツを引き出されてしまうと・・・。 しゅり、と衣擦れの音が聞こえる。 「七条さん・・・。俺、何もされてな・・・」 「・・大丈夫。怖いことは何もしません」 「・・ほんとに・・・」 「不可抗力ですよ。 だから・・・消毒です」 「だから、ホントに違うんです・・・ってばーーー・・・・・」 もがいてもどうしようもないのは知ってるけど、 この人が嫉妬深いのも知っていて、怒っているのもよくわかる。 このままコトに至っちゃったら何されるか・・。 考えるだけでも恐ろしい。 「ほんっと、七条さん、待っ・・・」 ほんっと俺って学習能力が皆無みたいだ。 毎回毎回毎回中嶋さんに騙されて七条さんにあらぬ誤解をされる。 最後にはちゃんとわかってくれて、謝ってくれて、甘やかしてくれるんだけど・・。 ・・・・・・・・・・はぁ・・・。 ++++++++++++++++++++ 仕事が山盛りになっていて、流石の中嶋でも何も出来ないのが事実であったので、 案外すんなりと無実は証明された。 勿論今度は単純に愛し合うという理由で愛し合っていたのだけど。 淹れてもらった熱い紅茶に口をつけ、 啓太はそっと腰をさすった。 「・・・大丈夫か、啓太」 「・・・・うう・・・」 からかいの笑みを存分に含んだ目元で西園寺に笑われ、 啓太が小さくなる。 「郁。あまり伊藤君を苛めないでください」 「別に苛めているつもりはない。可愛がってるんだ」 「到底そうには見えませんが・・・」 「お前に言われたくはないな。お前の愛し方も少々普通とは違うからな」 「伊藤君への愛が溢れてしまって、自分ではコントロールできないんです。 すいません、伊藤君」 ちゅ、とコメカミにキスをされ、啓太がいっそう赤く、いっそう小さくなる。 可愛いですねと呟きながら、啓太の髪にも口付ける。 「お・・・俺、ちょっと書類届けに行ってきます!!!」 「おい、啓太?」 恥ずかしさにいたたまれなくなったのだろう。 後で持って行こうと机に置いておいた書類を掴んで逃げていった。 「・・逃げられちゃいました」 「・・・・お前のせいだろう」 くすくすと笑いながら、七条が置いていった紅茶を一瞥する。 「冷め切ってしまう前に戻ってきてくれると良いんですけど」 「いや。それは無理だろう」 西園寺の言葉に、七条が首をかしげた。 どうやら本当にわかっていないようであるので、死刑宣告をしてやる。 「あれは、生徒会に持っていく書類で、 丹羽はそこで寝ているからな」 西園寺の指差した窓の外では、気持ちよさそうに丹羽が昼寝をしていた。 ++++++++++++++++++++ 「あ、これ、生徒会に持っていく書類だ」 どうやら啓太もひっつかんでから気づいたらしい。 歩きながら、書類を眺める。 「今日は王様がいると良いんだけど・・・」 恥ずかしさで逃げた先が、中嶋さん一人しか居ない生徒会室だったら・・・。 ・・・七条さんが怖すぎる。 ごくりと唾を飲み込む。 とんとん、と扉を叩くと、『入れ』と中嶋の声がした。 ・・・アウトか。 俺の運の良さってばどこへ行ってしまったんだろう。 首をかしげてしまうが、きっと七条に出会ったことで運を使い果たしてしまったのだと納得する。 お気楽なものだ。 「失礼します。会計部から、書類を届けに来ました」 「そうか・・・」 メガネの奥で光る瞳は、何故かどこかの狩猟民族のようで、 ぞくりと背中に悪寒が走る。 「・・・何を怖がっている」 「別に、怖がってるわけじゃ・・・」 「良いからとっとと書類を持ってこい」 ど真ん中にある会長の机を占領している中嶋の手招きに応じ、 書類を届けるために近づいていった。 小さな部屋だ。 近づいた後に中嶋の口角が上がったことに気づき、『やばい』と思った時にはもう遅い。 ばさり。 紙が舞い上がった。 「ちょ、中嶋さん、書類!」 「何か望んでいるんだろう?お前は。 この前の礼がまだだったからな。お前が望むようにしてやる」 「違ーーーーっ!!望んでません!!」 「そうやってお前は嘘をつくんだな。悪い子だ」 唇に息がかかる。 「所詮、お前はあんな犬では満足できないんだろう?」 「七条さんは、犬なんかじゃ・・・」 「別に、俺は名前は出していないがな。 まあいい。俺が満足させてやるよ・・・」 もがいたところで、腕はしっかりと中嶋によってとらわれている。 「お前は、何を望んでいるんだ・・・? たまには、望みどおりにしてやるよ」 ぎゅ、と啓太が思い切り目をつぶり、ネクタイが解かれた。 不意に、扉が開いた。 「伊藤君が望んでいるのは、貴方が離れることではないでしょうか?」 バカ丁寧な物言いに、中嶋の眉が上がる。 「もしくは、僕が彼を助けることでしょうか」 「七条・・・さん」 つかまれていない方の腕を、七条が掴んだ。 啓太が安堵のため息をつく。 「大変不本意ながら、会長を拘束させていただきました。 校庭に転がっているので、取りに行かれたらいかがですか?」 「・・・丹羽を?」 「お仕事をしっかりやってください。 その後で、ゆっくりとプレゼントを開けてくださいね」 「なっ・・」 「ああ・・・でも、時限式ですから。 早くお仕事を終わらせてしまわないと、お仕事が増えてしまうかもしれませんね」 「・・・七条・・・」 「でも、大丈夫ですよね。 僕の姫君と遊んでいたわけなんですから。お時間はたっぷりとあるでしょう?」 「・・・・ちっ」 腕をはずし、中嶋が外へと走っていった。 ぽかん、としている啓太の額に口付ける。 「丹羽会長を探しにいったんでしょう。 丹羽会長がいらっしゃれば、もしかしたら間に合うかもしれませんからね」 「・・・えーっと・・・ウイルスが発動するのって・・・」 「ウイルスなんて人聞きの悪い。 プレゼント、ですよ。伊藤君。1時間後に設定しました」 「・・・」 終わるのかなぁ・・。啓太が首をかしげるが、 丹羽が必死にやれば終わるだろうという呑気な七条の答えに、 そんなものなのか・・・と納得してしまった。 「嫉妬で胸が焼き焦げそうです。 もうあんな人がいるところに一人で行かないでくださいね」 「・・・はい・・・。すいません」 七条を悲しませるのは本意ではないと、 啓太がしゅんとなってしまう。 「約束してくださいね」 「はい」 約束、と、七条がキスを落とす。 ここが生徒会室だと忘れているのは啓太だけだが、 七条がそれを指摘することはありえないだろう。 啓太にキスが出来るなら、七条が場所を考えるはずがない。 「・・・伊藤君」 「はい?」 「伊藤君の部屋と僕の部屋、どちらが良いですか?」 「・・・・・はい?」 「ベッドがあるところが良いでしょう? あの人が居たこの部屋でするのもなんですし・・・」 「・・・・・・・・・・」 「消毒、です」 にっこりと微笑む七条は、やっぱり怒ってて。 「・・・・・・七条さんの部屋で・・・」 「では、行きましょうか」 ドナドナの気分で手を引かれていく。 何をされるかはわかっているんだけど、やっぱり断れないのは、 相手が七条だからなのだろう。 「・・・七条さん」 誤解だけはしないで欲しいと、啓太がつかまれている手を引いた。 七条の紫の瞳が甘くとろけていて、 甘く甘くとらわれる錯覚に陥る。 「・・俺、七条さんだから・・・ですから」 「何がですか?」 「七条さんだから・・・こういうことできるんですから」 ぐいと手を引き、背伸びをして、キスをする。 敗因は、七条の背の高さと、ぎゅっと目をつぶっていたから。 唇から少し逸れてしまったそのキスに、七条が目を丸めて。 「・・・ふふ。可愛いですね・・・伊藤君は。本当に」 「可愛いって・・・」 「可愛すぎて・・後数分も理性が持ちません」 七条から仕掛けられるのは、ちゃんと唇が触れ合ったキス。 「僕も、伊藤君だからです。こんな風になってしまうのは」 「・・・」 優しく触れ合う唇は、優しくて。 ぎゅ、と抱きしめてもらったそのぬくもりに、啓太が身を任せる。 「部屋まで持たないかもしれませんね」 早々に理性との相談を諦めた七条に、啓太がそっと苦笑した。 ++++++++++++++++++++ つーか、啓太が学習能力ないのか、中嶋さんが学習能力ないのか・・。 最近ちょっと間抜けな帝王が好きです。 七条さんがもつといいね、伊藤クン! というわけで、何だかすごく書いてるのが楽しくて、 気づけばスクロールバーちっちゃ! 何だか一人楽しんでるなぁと思いながらも、 書きあげてみました。 78000ヒットいたしました、七海さまへ捧げます。 リクエストが中VS七啓でしたが、 ご希望に添えていましたでしょうか・・? 何かどこかがものすごーく間違っている気がするのですが・・。 受け取ってくだされば。 これからもどうぞどうぞよろしくお願いいたします。 |