[Happy.]





俺ってば、本当に。

恵まれてるなぁー。



上機嫌に電卓を叩きながら、そんなことをふと思った。

暖かい部屋に、美味しい紅茶もあるし。

美味しいお茶菓子は用意してくれてるし、

綺麗な綺麗な西園寺さんとすごくかっこいい七条さんは優しいし、

色んな話をしてくれるから飽きないし、

俺が恐縮しちゃうだろうからと、仕事も与えてくれる。

それから、それから。

とにかく俺って、すごく幸せだな・・・・・。



「啓太」

「あ、はい」

「ひと段落ついたのか?」

「はい」



西園寺さんの問いに、一つ頷く。

ぼーっとしちゃってたのがバレちゃったのかな。

ちょっとそれは恥ずかしいかもしれないけど・・・。

元気よく頷いた俺に、西園寺さんが笑う。



「そうか。なら一旦休憩にしよう」

「え?」

「あまり根詰めても、作業ははかどらない。臣」

「はい」



パソコンでそれまで入力作業を行っていた七条さんが、西園寺さんの声で立ち上がる。



「今日はアールグレイが良いですか?ダージリンか、アップルティーもありますよ」



空で七条さんが唱えているのは全部紅茶の種類で・・・。

え・・・何種類あるの?って感じだ。

紅茶の種類なんて缶の種類しか知らない紅茶初心者の俺には、

覚えられるわけがない。

昨日出されたのは・・・あれ?アッサムだっけ。それとも、キャンディー?

毎日毎日出してもらってるのに・・・なんだかなぁ。

俺ってば物覚えが良い方じゃないけど、

少なくとも西園寺さんと七条さんの好きな紅茶くらい覚えておこう。



「今日はちょっと久しぶりにミルクティーでも飲みましょうか」



こうやって手を変え品を変え、お茶の時間を楽しませてくれようとしてる七条さん。

そんな七条さんの言葉に、俺は頷いた。

・・・って、あれ?

俺でいいのかな。



「えーと、七条さん、俺で・・・」

「啓太の好きなものを淹れれば良い。

啓太の好むものを私も知りたいしな」

「・・・はぁ・・・」

「郁もそういっていますし・・。郁の好みの紅茶なんて作ってもしょうがないですしね」

「?」



・・・なんか、すごい言われような気がするんだけど・・。

気のせい・・・だよね?

そうだよ。七条さんが西園寺さんのこと変に言うはずないんだから。



・・・そういえば、西園寺さんの好みって、水色の高い紅茶じゃなかったっけ。

えーと・・・ミルクティーって・・あり?

会話の途中で俺はミルクティー好きだって言ったことがあるけど、

もしかして、そのせいなのかな。

だけど、嫌いなものは嫌いとはっきり言う西園寺さんは、黙って微笑むだけ。

・・・良いの・・・かな?



「伊藤君。一緒に作りませんか?」

「はい!」



七条さんの出した案に、今度も俺は一にも二もなく頷いた。



「啓太はいつでも臣と紅茶を作りに行くんだな。

そんなに私と居るのが嫌か?」

「嫌って・・そんなわけじゃないですけど・・。

でも俺、早く西園寺さんが美味しいって言ってくれる紅茶作りたいんです!」

「・・・」



何だか多大な誤解を招いてしまっているようなので、一生懸命主張した。

西園寺さんも、七条さんも、美味しいって言ってくれる紅茶。

いつか一人で作れるようになりたい。

だって七条さんの紅茶は本当に美味しくて、

美味しい紅茶を飲んだときの西園寺さんの笑顔は、すごく綺麗で大好きだから。



俺の言葉のどこが可笑しかったんだかわからないけど、

西園寺さんは少し目を大きくして、暫くしてため息をついた。



「一勝一敗といったところでしょうか・・・」

「の、ようだな。行ってこい」



二人にしかわからない会話に、俺が首をかしげる。

そんなことをしている間に七条さんは簡易キッチンの方へ行ってしまい、

慌てて俺も追いかける。



「啓太」

「はい?」

「誤解はするな。お前の淹れる紅茶も私は好きだ。香りが高く、美味しいからな」



その瞬間の、西園寺さんの笑顔が・・・・こう、すっっごく綺麗で。

俺は顔を赤くしながら、有難うございますとだけ言って、七条さんの所へ行った。







+++++++++++++++++++++







「・・・ふぅ」

「ふふ。どうしました。耳まで真っ赤になってますよ」



水を沸騰させ、紅茶を選んでいた七条さんに笑われ、余計顔が火照る。

うう・・やっぱり赤くなってたか・・・。



「・・・西園寺さんが・・・綺麗すぎるんです」

「・・・郁が・・・ねぇ。そうですか?」

「そうですよ。七条さんは長く一緒に居るから慣れてるのかもしれないけど・・」



慣れてない俺にとって、あの笑顔は殺人的だよ。

まだ走ってる心臓を抑えながら、俺はもう一つ長いため息をついた。

そんな俺を、七条さんが笑顔で見つめる。

・・・・。

七条さんが西園寺さんの笑顔にぐらつかないのって・・・。



「・・・七条さんもかっこいいからか・・・」



殺人的に綺麗な笑顔に慣れてるって・・・そういうことね。

俺、こんなに綺麗な人がいて、心臓持つのかな。



ぼそりと呟いた俺の言葉を聞きとがめたのだろう。

七条さんの笑顔が、本当に嬉しそうなものになる。



「伊藤君は、僕のことをかっこいいと思ってくれるんですか?」



・・・どうして喜ぶんだろう?

まぁいいや・・・。

背も高くて、こんなにかっこいい人が、

子供みたいに嬉しそうに笑ってるところって、ちょっと可愛いかも・・・。



「七条さん、俺はすごいかっこいいと思いますよ。

あ、えと、俺だけじゃなくて、普通に見てもかっこいいですし・・・」

「ふふ。有難うございます」



何だか上機嫌で笑いながら、七条さんはぱかりと紅茶の缶を開け、沸騰したお湯に紅茶を淹れる。



「今日はアッサムです。

アッサムでも、極上のものになると甘みが出て、美味しいんですよ」

「へぇ・・・」



そんなの俺知らないよ・・・。

苦笑いした俺に七条さんは笑いかけ、火を弱火に調節する。



「でも、僕は伊藤君の笑顔の方が殺人的だと思いますけどね」

「へ?」

「こんなに可愛く微笑まれたら、誰でもノックアウトされてしまいます」



ちゅ、と額にキスを送られる。

・・・子供の頃外国暮らししてたからか・・こういうスキンシップが多い。

俺なんかは恥ずかしくてたまらないんだけど・・・。

うぅと唸る俺にそっと微笑み、七条さんは紅茶にミルクを入れた。



ミルクを入れれば直ぐに出来るミルクティー。



「あ、七条さん、俺持ちます」

「良いんですよ。持たせてください」

「・・・で、でも!!!」



結局俺はそのまま七条さんからお盆を渡してもらえることはなく。

・・結局俺、どーして簡易キッチンに行ったんだろう・・・?

疑問が顔に出ていたんだろう、七条さんがふふと笑い、俺の方を見る。



「伊藤君とたくさんお話が出来て楽しかったですよ」



腰掛けるように促され、七条さんの隣に座った。

目の前に出される紅茶は、ほかほかと湯気が出ていて美味しそう。



「今度は私の話し相手にもなれよ、啓太」

「はい!是非」

「ふふ。ダメですよ。伊藤君はあげません」

「それは啓太が決めることで、お前が決めることではない」

「さぁ・・どうでしょう」



なんとなーく不穏な雰囲気を悟り、俺は小さく紅茶を飲んだ。

・・・美味し。



「伊藤君は僕が頂きますから。そろそろ、勝負をかける時期ですしね」

「・・・・さて、どうかな。私も負けてやるつもりはないぞ」

「ふふ」

「ふん」



隣には七条さんが居て、目の前には西園寺さんが居て。

美味しい紅茶はあって、部屋はあったかくて、二人とも優しくって。

・・・俺って、本当に幸せだなぁー・・・・。

そう思いながら飲んだミルクティーはちょっとだけ甘くって。

思わず頬が緩んでしまった。







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ていうか啓太・・・大丈夫か・・?
もうちょっと危機感を持った方がよろしいのではないかと、
老婆心ながらに思ってしまうんですヨ。
・・・・いつ狼にさらわれるかわかったものではないですよ・・・(苦笑)

こちらは相互リンクを受けてくださった渡瀬様へ。
七条VS西園寺(最終的に悪魔勝ち)というリクだったのですが、
まぁ、七条さんがとりあえず一歩だけ先に進んでいるというところでしょうかね。
西園寺さんの笑顔には相変わらず弱いようです(笑)
渡瀬さま、どうぞお受け取りくださいませ。
どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
渡瀬様以外の方は転用禁止です。