[こんな日常いかがです?]





授業終了のチャイムが鳴った。

・・・・さあ、戦闘開始。



「じゃ、和希。中嶋さん来たら誤魔化しておいて!」



金曜の午後といえば、生徒会から中嶋の来る日。

仕事をためにためた張本人を片手に、ついでに助っ人を捕まえるために、である。

啓太が来れば必然的に遠藤もついてくるし、

啓太に頼ませれば会計部も五月蝿く言ってこない。

パソコンを一台二台壊されるだろうが、

啓太がいる間は妨害をしても仕事が滞るだけだと向こうもわかっているので、

その間にバックアップを取ればよい。



が、生徒会には良い事だらけだろうが、啓太にはそうはいかない。

金曜日つかまったら、自分の性格を十二分に把握している啓太である。

土・日も一緒に缶詰になるだろうと、漠然とそんな不安が頭をよぎる。

そんなことはごめん願いたいし、

そんなことになってしまえば西園寺と七条が許さないだろう。



会計部に行けば、きっと七条がかくまってくれる。

そんなことを信じて、啓太は足を踏み出そうとして。



「逃げられるとでも思ったか?」



早速中嶋に捕まってしまう。

後ろで和希がため息をついているのが聞こえた。



「さぁ、行くぞ。啓太」

「わりーなぁ、啓太も遠藤も」

「・・・王様、あんた悪いなんてこれっぽっちも思ってないでしょう」

「そんなこたねーよ」



和希の言葉に、丹羽が笑う。

この顔は・・本当に反省してないんだな。

その場に居た誰もがそれを思ったろう。



「・・・あの、中嶋、さん」

「どうした?何だ」

「・・・・今日だけは、ダメなんですーーーー!!!」

「あ、おい、啓太!!」

「啓太!?」



全員の声を背中に、啓太はその場を走り出した。

絶対絶対、今日だけは。

明日は七条さんと出かける約束をしているのに、

生徒会の仕事を手伝っている場合じゃないんだ。

王様、中嶋さん、和希、ごめん。

だけど王様、そろそろ自業自得だって覚えてください・・・・。






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「はぁー・・・」



周りを見回して、最後に後ろを見てみる。

・・・良かった、ついてきてない。

ほっと胸を撫で下ろし、啓太は息を整えた。



「良かった」

「何が良かったの?」

「わぁーーーーーっっっ!!!」



ふいに湧いて出た成瀬に、啓太が盛大な悲鳴を上げた。

それでも流石は恋する男子。

ハニーったら可愛いっvvと、抱きつく手を緩めることはない。



「な・・成瀬さん・・・びっくりした・・・」

「ごめんね、ハニー。驚いちゃったんだね」

「あ・・・いえ、大丈夫・・です。

・・・成瀬さん、今日はどうしたんですか?」

「どうしたって、何が?」

「午後練してる時間じゃ・・・」



だけど、成瀬は動きやすい服装ではなく、いつもの制服で。

ことり、と首をかしげると、成瀬が『可愛いv』と褒めてくれた。

・・・ちょっとあんまり嬉しくないかも。



「明日ね、僕達は試合だから。

今日は各自でコンディションを立てるんだ」

「成る程」

「僕も着替えて練習をしに行かないといけないんだけどね。

担任に明日の試合の激を飛ばされてたら、遅くなっちゃった」

「あ、頑張ってくださいね!」

「勿論だよ、ハニー。

・・・でもね」



あ、なんだかちょっと雲行きが怪しくなってきた?

啓太の頬が引きつる。



「ハニーが応援しててくれると思うと、もっと頑張れると思うんだ。

明日の試合、来てくれないかな」



来てくれるといいな。来て欲しいな。

わくわくとした表情は、ちょっと断るにはきつくって。



「あ・・・う・・・」

「ハニー?」

「ご・・・ごめんなさい、成瀬さんー!!!」



ぺこり、と頭を下げ、啓太はまた走り出した。

ハニー!なんて叫び声が後ろから聞こえたけど・・・。

ごめんなさい成瀬さん、心の中でたくさん応援してますから!!




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一生懸命走っていると、目の前に知った二人組みがいることに気づいた。



「篠宮さん、岩井さん」

「ん・・・伊藤か」

「何してるんですか?」



啓太が尋ねると、篠宮がため息をついた。



「卓人が、次の絵の題材が決まらないと部屋に閉じこもってもう3日だ。

いい加減何か食べさせようと思ってな」

「・・・俺は、いいと言ってるんだが・・・」

「え・・・ダメですよ。ちゃんと食べてください」

「伊藤もこう言っているんだ。

しっかり食べろ。卓人」

「・・・・」



はぁ・・・とため息をついた岩井は、多分話なんて聞いちゃいないのだろう。

啓太が苦笑した。



「・・・・啓太」

「はい?」

「その・・・もし、嫌でなければ良いのだが・・・」

「・・・」

「モデルを、やっては貰えないだろうか・・・。明日」

「あ・・・明日、ですか・・・?」

「・・・出来れば・・・明日が良いんだが・・・」



『嫌でなければ』なんていう前提、啓太にはないに等しい。

う・・と啓太が呻く。



「・・・あの・・すいません、明日は・・・」

「・・・そうか」



あまり伊藤を困らせるなと篠宮が岩井をたしなめているが、

岩井の目は、すごーく悲しげで。

啓太が呻く。



どうして俺ってば・・・今日は走りっぱなしだ・・。



「本当・・ごめんなさい、岩井さん!今度、絶対モデルさせてもらいますから!」

「あ・・啓太」

「伊藤?」



急に走り始めた啓太に、篠宮と岩井が首をひねるが、

そんな声、罪悪感で胸いっぱいな啓太に届くわけがなかった。




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「・・・はぁ・・・疲れた」



走りっぱなしだからだろう。

今度ついたところは東屋だった。

そこには誰もいなく、安心して座った。



「・・・っと。お前がいたのか」



座ろうとした先に猫が居て、啓太の頬が緩んだ。



「ぶにゃぁ・・・」



トノサマは尻尾を揺らすだけで、啓太に明日の予定を迫ったりはしない。

それはそうだろう。

ぱたり、ぱたりと尻尾を揺らすトノサマの動きを追いながら、

啓太がトノサマの喉を撫でる。



「・・・お前は呑気だよなぁ・・・」

「・・・ぶにゃぁ?」

「・・・もう、疲れたよ、俺は・・」



はぁとため息をつく啓太に何を思ったのだろう、トノサマが啓太の膝の上に乗る。

そこで丸くなった。



「え?何?」

「ぶにゃ」

「俺を守ってくれんの?」



当然だろうと、トノサマが鳴いた。

その顔のふてぶてしさが面白くて、啓太がつい噴出す。

膝の上に毛皮があるため、随分暖かい。








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「おや。トノサマ」



てこてこと歩いている猫を見つけ、七条が声をかける。



「伊藤君を知りませんか?

先ほどから探しているのですが、見つからなくて」



七条の問いに、トノサマがぶにゃぁと一声鳴き、

くるりと正反対へ歩き出す。

着いて来いというその指示を正しく理解した七条が、後へついていく。



「おやおや・・」



くすー、と寝息を立てる愛し子が、そこに座っていた。

七条が苦笑していると、トノサマが何かを主張する。



「・・ああ、成る程。君が彼のナイトをしてたんですか」

「にゃ」

「有難うございました」



トノサマが最後に尻尾を七条の足に絡めて、また歩き出して行ってしまう。

風が肌寒い。



「こんなところで寝ていたら、風邪を引いてしまいますよ」



にっこりと笑った七条が、自分の上着を脱いで啓太にかける。

それから、隣に座り、啓太を起こさない程度の力でそっと引き寄せる。

肩にかかるぬくもりが暖かい。



「ふふ」



七条が息だけで笑い、啓太を見つめる。

甘い甘い瞳。



「・・・う・・・」

「・・・起こしてしまいましたか?」

「七条・・・さん?」



啓太が頭を起こすと共に落ちるのは七条のジャケット。

衣擦れの音と共に落ちるそれを広いあげ、啓太の肩にかける。



「え・・・これ、七条さんの・・・ですよね?」

「大丈夫ですよ。伊藤君がこうしていてくれていると、暖かい」



七条に引き寄せられ、啓太の頬が染まる。



「だから、離れるなんて悲しいこと言わないでくださいね。

伊藤君が離れてしまうと、寒くて風邪を引いてしまいますから」

「・・・うう・・・」



真っ赤になる啓太に、七条がそういえばと別の話題を提示した。



「明日、僕と出かけるために、たくさん頑張ってくれたそうですね」

「え・・・誰に聞いて・・・」

「勿論、トノサマです」



そういえばトノサマにたくさん愚痴を言ってしまったっけと、

別の恥ずかしさで啓太の頬が染まる。



「・・・でも、すいません」

「え・・・」

「明日出かける約束、僕が破っちゃうかもしれません」



そうして触れ合う唇は、外の寒さのために、ちょっとだけ冷たくて。



「・・・・・」

「・・・出かけたい、ですか?どうしても・・・?」



甘い声が、頭上から落ちてくる。

見なくてもわかる。甘く溶けてる紫色の瞳で、きっと自分を見ている。

ぎゅっと啓太が目をつぶって、心なし七条に体を寄せる。



「・・・俺は・・・七条さんといられれば・・・なんでもいい、です」



そんな啓太の言葉に、七条がまた微笑む。



「それでは・・・。僕と君の望みを両立することは出来そうですね」



もう一度触れ合うキスは、深い深いもので。

啓太はついていくので必死だ。



「お部屋に招待させていただいてもよろしいですか?」

「・・・」



ぎゅ、と握られたの服が返事と了承して。

七条が嬉しそうに微笑した。



翌朝。

出かけることが出来たか否かは、七条の理性にかかっている。







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何でもお任せとうリクエストを頂き、
それではと脳みそをこねたものです。
所詮七啓書きですから、七啓以外は思いつかないみたいです。
頑張りましたよ、私・・(笑)
なにをって、短くするのに。
トノサマのところ、最初は郁ちゃんいましたからね。
それでも、これ以上は長く出来ず、カット。
それでもこの長さ・・。
・・・すいません・・・っっ。

全て『あまあまハニー』の上高地さまへ。
何だかいつもお世話になってます・・・。
そろそろ頭上がらなくなってきましたね(笑)
相互リンク有難うございました。
どうぞ末永くよろしくお願いいたします。

上高地さま以外の方は転載禁止でお願いします。