[It is Mine!!!]






人生、往々として、一人ではどうしようもない事態に陥ることがある。

最愛の人間と二人で・・・っていうのも、力にはなるんだろうが、

多勢に無勢ではあからさまにこちらが不利。

勿論俺はその辺の奴等よりも力はあるし、

頭の回転もまぁこの学園で上位者とそこそこ良いほうだから、

つまり知能勝負だろうが力勝負だろうが負けることはまずない。



勿論それは相手が一般人だったらの話で、

俺の敵である奴等はその規格から外れてもらう。



「あーあ・・・」



高3にして何故人生を悟っちゃってんだろう、俺・・。

大きく伸びをすると、隣で寝ていた筈の啓太がくすりと笑った。



・・・可愛いじゃねーか、ちくしょう。



「起きたのか?」

「ふふ。俺、結構前から起きてましたよ。

王様、何か色々考えてたでしょう?」

「あ?ああ、まあな」



悪戯そうな丸い青い目が、俺を見る。



・・・・可愛い。



「何か、色んな表情してて、王様、可愛かったですよ」

「そう、可愛い――・・・は?」

「すっごく、可愛かったです」



・・・そういって、鼻の頭にキスを送られても、

素直には・・喜べねーよなぁ・・・。

つーかこいつに可愛いっつわれても・・・。

どちらかといえば『格好良い』という称賛を期待していたのだが、

啓太の表情を見る限り、それは無理そうだな・・・。



ったく。



「俺が悩んでんのはお前の可愛さにだっつーの!」



茶色がかった柔らかな啓太の猫っ毛を思いっきりかき混ぜる。



「わ、ちょっと、王様!可愛いって何ですか」

「お前だって今俺に言ったじゃねーか」



ぐしゃぐしゃ頭になって唇を尖らした啓太の鼻先に、

さっき俺がされたようにちょんと唇をつける。



やっぱりこいつは、誰にも渡せねーよな。







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「ハニー!!はにー、ハニーーーーッッッ!!!」

「・・・ん・・・成瀬さん・・・」



成瀬の馬鹿でかい声に啓太が頬を染めた。

その間に成瀬に抱きつかれてしまい、丹羽の額に青筋が立つ。



「おい、成瀬・・・」

「朝練頑張ったらハニーに会えたなんて夢みたいだよ!!!

ああ、可愛いなぁvvv」

「成瀬さん・・・あの・・」

「朝ごはん食べた?今朝のメニューはね・・・」

「・・・ちっ」



面倒くさそうに頭をかきながら、丹羽は周りを見回した。



「おい、滝!!」

「はいは〜い。お呼びですかー?」



呼んだ瞬間現れるとは、商魂魂旺盛というかなんというか。

今更そんな不思議は気にしないようで、丹羽は財布から食券を取り出した。



「成瀬をクラスまでデリバリーしてこい!」

「でかいから値ははりまっせ〜♪」

「いいから早くしろよ」

「はいは〜い」



食券を受け取った滝がにんまりと目を細めて笑う。



「ほーら由紀彦。行くで〜」

「ん、ちょ、俊介!何するんだよ」

「馬に蹴られたなかったらはよせい」

「俊介こそ、僕とハニーの時間を邪魔しないでよ!」

「後でな、何かええもんやるから、今は、な?」

「いいものって何だよ、俊介」

「せやなぁ。可愛い啓太ちゃんの寝顔写真v」

「行くv」

「っておい!!?」

「ちょ、俊介お前それいつ撮ったんだよっ!?」

「この前、会長と海辺で寝てるとき。

ちゃぁんと周り注意せえへんとあかんよ、お二人さん」



ひらり、と手を振る滝は、何だかまだまだ写真を持っていそうで。



「〜〜〜〜〜〜っ!!っの小猿!!」

「そんなぁ・・・」



啓太が泣きそうに顔をゆがめ、丹羽も頭をかきむしる。

誰だって自分の情けない顔や自分の恋人の可愛い寝顔を他人に見せたいとは思わない。



「とりあえず、俊介に言って写真・・・」

「そういうときは、ネガごと貰わなければ意味がありませんよ、伊藤君」



びくりと啓太の肩が震えたのは、急に後ろから手が回ってきたからだ。



「し、しちじょ、七条さ・・・どっから・・」

「ふふ。おはようございます」



ごく自然に頬に口付けられると、何も言えなくなってしまう・・・。



「おい、七条。郁ちゃんは?」

「・・・」

「啓太、他意はねえって。

気になるじゃねーか、いつも一緒の七条と郁ちゃんなのに、一人しかいねーなんて」

「信じられません」



ぷぃと顔を背けた啓太に、丹羽が情けない声を上げた。

ああ、朝だなぁなんていつもの光景に周りの人間達が変な実感に浸る。



「ふふ。郁はね、今日は午後からの授業なんです」

「午前中授業がないんですか?」

「でも、お前は出てるんだろ?」

「郁だけ、ないんです。体育ですから」



ああ、成る程と、納得する啓太に、七条が微笑む。



「朝から伊藤君と会えるとは思えませんでした。

郁はついてませんでしたね」

「そんな・・・・」

「今日は、会計部へ足を運んでもらえますか?」

「え・・・あ・・・えと・・・」

「最近、伊藤君とたくさんお話できなくて、寂しいんですよ。

お菓子もたくさん残っていますし、美味しい紅茶もありますよ」



寂しい、という言葉に啓太はどうも弱いようだ。

眉を少し下げて、『それじゃぁ・・・』なんて言いかねない啓太の目を掌で塞ぐ。



「わ、わ・・・王様?」

「わりぃな、七条。啓太は今日も生徒会出勤だ」

「え・・・あ・・・えと、すいません・・・七条さん」

「おや・・・。残念。伊藤君が決めたことなら、仕方ありませんね」



小さく肩をすくめる七条に、丹羽が心の中で舌を出す。



「あ・・えと、七条さん、朝ごはんは・・・」

「本当に残念です。君と会えるとわかっていたら、もう少し待っていたのですが・・・」

「おい、啓太。俺達も早く食わないと遅刻するぞ」

「あ、はい。もう、ちょっと待ってくださいよ!

じゃぁ、七条さん。また後で」

「はい。『また』」



七条の笑顔が薄ら寒い気がして、丹羽がそっと両肩をさすった。







++++++++++++++++







昼間はまぁ、時間が会わないことも多々あるので、和希に譲るとしても、

放課後の啓太は忙しい。

早く取らなくては会計部に取られる。

そして、運良く会計部に取られなくても、啓太が生徒会へ足を運んでしまえば中嶋に取られる。



・・・まぁ、それだけは阻止しなければならないと、丹羽は啓太の教室まで急ごうとして。

結局啓太もろとも中嶋に捕まるのがオチなのだが。



「あ〜あ・・・」



面倒くさそうにハンコをぺたぺたとつけていく丹羽がため息をつくと、

啓太が『はは・・・』と苦笑いをした。



「中嶋さん、そろそろ休憩にしませんか?」

「・・・そうだな。いつもより大分進んだ」



こきこきと肩を鳴らす中嶋が許可を出したことにより、啓太が立ち上がる。



コーヒーの入るいい香りと、こぽこぽと何故だか食欲を誘う音が立つ。



「・・・ところで、啓太」

「はい?」

「それは、見せびらかしているつもりか?」

「・・・はい?」



トン、トン、と、中嶋が自分の首の右のところを人差し指で叩いた。

首の右って・・・?

見せびらかす?

何のことかわからず、啓太がもう一人この部屋にいる人物・・丹羽に首を向けた。

そして、『げっ』と呻いた丹羽の声により、啓太は悟る。



「っ!!おーーーーーさま!!!!あれだけ、あれだけ言ってるのにっっ」

「だーもう、悪い!!俺が悪かった!!!」

「ッたりまえじゃないですか!王様が悪くなきゃ誰が悪いんですかっっ!!!」



きゃうきゃうと叫ぶ啓太とひたすら謝り倒す丹羽と。

はっきり言って五月蝿いぞと、中嶋が人差し指を耳につっこむ。



「・・・何だ。やはり丹羽ごときじゃぁお前を満足させられないんだな」

「・・・え・・?」

「遠慮なく言えば良い。満足させてやるぞ・・・?」

「わーーーーっ!!ヒデ!!ダメだ!!」

「わぷ」



いつの間にか丹羽が啓太の首を掴み、自分の方に抱き寄せる。

腕の中で啓太が小首をかしげるが、そんなものを気にしている場合ではない。



「ふん。つまらん」

「お前・・・普通友人の恋人取るか?」

「誰が友人だ?それに・・俺は欲に対しては手加減しない」

「・・・うん・・・知ってる・・・」



ほろりと涙を流す丹羽の腕の中で、啓太は先ほどの怒りを思い出したのだろう、

ぷ、と頬を膨らませる。



「もう、王様、だから俺の話――・・」

「・・・とりあえず、啓太はぜってー渡さねぇぞ、ヒデ」

「ふん。どうだかな。お前なんかで啓太が満足できるとも思わないが?」

「満足してんだろーが、十分!!!」

「・・そこで、中嶋ならば満足するという考えならば訂正しておけ、中嶋」



新たに現れた声に、啓太たちがきょとんとする。



「西園寺さん」

「啓太、またこんなところにいたのか。

・・それにしても、ここは相変わらず喧しい」

「・・・ふん。女王様はドアを叩くというマナーを知らないのか?」

「何度も叩いただろう。五月蝿くて気づかなかったんだろ。

丹羽。これに目を通しておけ。生徒会の方から上に提出しろよ」

「へいへい」



珍しく丹羽の前まで西園寺が書類を提出しに行く。

久々に間近で見る西園寺の顔に、丹羽の機嫌が上昇したことに啓太が気づき、

さらに頬を膨らませた。



「王様!」

「わーってるって。別に目移りしてたんじゃねーって」



わしわしと髪の毛を撫でられても、啓太は不満そうだ。

だが、西園寺の視線は丹羽ではなく勿論啓太。

頬を膨らましながらも丹羽を懸命に見上げる啓太に、西園寺が口角をあげる。



「・・・啓太。丹羽で満足できないのなら、私の元へ来い」

「もうっ、王様!!いつまで鼻の下伸ばして・・・・って、へ?」

「お前が望むなら、私は何でもするぞ・・・?」



艶やかな声とともに、西園寺の白い親指が啓太の唇をなぞった。

啓太の顔が染まる。



「なっ・・・なっ・・・さ、さいお・・・さ・・・!?」

「っておい啓太!俺に言っといてお前が郁ちゃんに鼻の下伸ばすってどーいう事態だ!!」

「え?あ、だ、これは不可抗力ですよ!!」

「お前なんかよりも私が良いということだろう?啓太」

「え・・・あ・・・えと・・・」

「それとも、私では不満か?」

「うえ・・・あ・・そうじゃなくて・・・。

・・・ふ・・・ふぇぇぇ・・・」

「女王様ではそいつを満足させるのは無理だろう。手綱も上手く取れないんだからな」

「ほう?力だけで押さえつけるのは、恋人ではないぞ、中嶋」

「それを決めるのは啓太だろう。なぁ?」



ぶちり。

泣きそうになっていた啓太の後ろで、何かが切れた、そんな音がした。

・・・・あ。

王様、もしかして、きれちゃった?



「っだーーーーーー!!!もう!!」

「・・・あーあ・・・。もう、王様ってば・・」

「啓太は俺んだ!!誰にも渡さねぇっっ」

「あ、おい、丹羽!!まだ仕事が――・・・」

「・・・ッチ」



だだだだだだ、と、随分大きな音を立て、

丹羽は結局生徒会室から逃亡した。

残るは舌打ちをする俺様コンビ。

惜しいことをしたと、泣きそうになっていた啓太の顔を思い浮かべ、変な笑みを浮かべていた。

それを啓太が見なかったことは、幸せだったのかもしれない。







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そして夜は夜とて、

丹羽は戦わなければならないわけで。



「あ、篠宮さん」

「おい、啓太」



二人とも手を繋ぐなんて概念がないからか、

結局生徒会から丹羽が脱走した後海辺でのんびりしていた二人は、

食堂に入ってから啓太が逃げるということで二人きりの時間の終焉を迎えた。



「伊藤か」

「はい!岩井さんも、こんばんわ」

「ああ・・・」



とっても優しい篠宮と岩井に微笑まれ、

啓太も目を細めた。



「岩井さん、絵の方はひと段落ついたんですか?」

「ああ・・・。何とか、な。

そうだ、啓太・・・・。出来れば、またモデルをお願いしたいんだが・・・」

「え?俺なんかで良いんですか?それなら・・・」



簡単にモデルを承知してしまう啓太に、丹羽が頭をかかえる。



「啓太・・・お前ってどうしてそう・・・・警戒心ってもんがないんだよ・・・」

「え?何か言いましたか?王様」

「・・・いや・・・・もうなんでもねぇ・・・」



泣きたくなるほどの無邪気さに、丹羽が涙を零している。

だが啓太が気づくわけもなく・・・また、そこに揃うのは天然ばかりなので誰も気づくわけもなく。

岩井はオロオロするだけ、篠宮もそれまでの発言に首をかしげていた。



「あ、啓太!!」

「え?あ、和希!お前、どこ行ってたんだよ今日」

「どこって・・そりゃ、まぁ・・・色々」



ぽりぽりと頬をかく和希は、色々とオトナノジジョウを持っているらしい。

ふ〜ん、と納得する。



「もう、今日会えなくて寂しかったよ、啓太ー」

「・・・何成瀬さんみたいなこと言ってるんだ?和希」

「え・・・嘘・・」

「うん。ホント」



こっくりと頷く啓太に和希がしばしショックを受けていれば、

噂をすればなんとやら、聞き覚えのある声が脳天をつんざく。



「あ、ハニー!!!」

「おや、伊藤君。こんばんわ」

「え?あ・・・」

「啓太。今から夕飯か?」

「お前が逃げた分の仕事を俺がさせられたんだ。悪い子にはお仕置き、だろう?啓太」



げ、と丹羽が呻く間もなく、啓太の周りに有名どころが集まっていく。

ざわざわと賑やかになっていく啓太の周り。



「だーーーー!!もうっ!!」

「・・・あーあ・・・もう。王様、まぁた怒って・・・」

「だから!こいつは俺のもんだって言ってんだろうがっっ!!

啓太、行くぞっ」

「もー・・・。夜ご飯どうするんですかぁ、全く」



手を引かれて、啓太は結局食堂で何も食べずに出て行ってしまう。

はぁ、と啓太が一つため息をついたが、

どうやら怒り心頭の丹羽には聞こえないようだ。







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ったくよぉ。

がし、と頭をかいたところで、怒りは簡単に収まるもんじゃねぇ。

くすり、と、隣の空気が震えた。



「もー、王様、何怒ってるんですか」

「・・別に、怒っちゃいねーよ」

「じゃー、何拗ねてるんですか?」

「拗ねてもねぇって」

「機嫌直してくださいよ」



ね、と、唇に微かに何かが触れた。

・・・ったく、こいつは・・・。



「王様だって言ってたじゃないですか。

俺は王様のものなんだから、

怒る必要も拗ねる必要も不機嫌になる必要もないじゃないですか」

「・・・だってよぉ・・・。

お前だって俺が郁ちゃんといたら怒るじゃねーか」

「それは!王様が西園寺さんにアプローチかけてるのが悪いんでしょ?

俺のは、不可抗力です」



って言われてもなぁ・・・。

・・・ったく。



「お前、もうちょっと警戒心持てよ」

「王様が『郁ちゃん』から卒業したら考えますよ。

とりあえず、機嫌直してくださいよ」



そうして触れ合う唇は。

・・・やっぱり、こいつには敵わねぇよなぁ・・・・。



そうして翌朝。

また俺の啓太を守るための戦争は続いていくのだった、と。

・・・何とかしないと、俺の身が持たねぇよもう・・・・。







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62000hit.キリ番の王啓でした。
啓太ちゃん争奪戦という話でしたが・・・。
・・・何か、ちょっと啓太が黒いですか・・・?
えーと・・・。(苦笑)
王様が愛されてるんですよ。一応。
王様、すごく啓太に愛されてるんですよ。
そういうお話。
・・・言い訳が思いつきません・・・(苦笑)

全てやまと様へ捧げます。
へたれ王様でも!と言ってくださりましたが、
え・・・と、ちょっとへたれすぎ・・?
他の方は転載禁止です。