[例えばケーキのように甘い恋を] ふさ。 足を入れると、絨毯に取られそう。 すっごく柔らかい絨毯。 周りに誰もいなかったら裸足になって駆け回りたい。 物珍しそうにきょろきょろと回りを見ている啓太を観てちょっと笑う。 ・・・啓太が女に見えるならば、丁度良いかもしれない。 「スイートを一つ貸してください」 「畏まりました」 学会だったり西園寺が誰かと面会しなくてはならなかったり、 音楽を聴きに行ったりと色々な理由のために、 常連、とまでは行かないが、七条がたまに西園寺と利用するホテルである。 西園寺家の息子の友人、ということで、七条も案外良い扱いをされている。 それに、七条もいつも良い部屋を取っているし。 西園寺だろうが名前が知られてなかろうが、 良い部屋を取ってくれる客は総じて良いお客である。 案の定突然の七条に、ホテル側は嫌な顔一つすることなく鍵を差し出す。 「お荷物は?」 「人間二人だけなので、構いません」 接客用の笑顔で七条が言えば、そこで従業員は引き下がる。 退き際を心得ている。 「伊藤君、行きましょう」 いつもの彼とは違う、白い彼の手を取る。 「?」 「あ・・・・の、七条さん?もしかして・・」 「はい。その通りです」 大方考えていることはあっているだろう。 ならばと、言葉に出される前に肯定してしまう。 だってこれからやることは、どう言葉を濁してもおんなじことだから。 +++++++++++++++++ 「わ、ちょ、七条さん、嘘だぁっ」 「いいえ。残念ながら、本当です」 残念なんか全然思ってない七条が、啓太をベッドに横たわらせる。 意識ははっきりしているものの、血液中にアルコールが残っていて何だか力が入らない。 「え・・嘘、ホントに?」 「本当ですよ」 まだ疑わしそうな啓太の唇に、口づける。 バードキスをいくつかした後、 唇を舌でくすぐる。 歯が浮いた隙に、そっと舌を忍ばせた。 ぴちゃぴちゃと、水音が立つ。 ケーキを食べたからかもしれない。とても甘い。 「甘いですよ、伊藤君」 「し・・・ちじょうさんだって・・・甘いです・・・」 うぅ・・と呻く啓太の首筋にキスを落とした。 抱くのは、3回目。 1回目は告白のとき。 可哀想に、あんなに怖がらせてしまった。 啓太と一緒になれるのが嬉しくて、気がせいてしまった。 2回目は、そのすぐ翌日である。 ・・・まあ、基本的にあの辺りは焦っていたのだ。 啓太は良かったと言ってくれたが、 やっぱり痛かったのだろう行為に対して、逃げ腰なところがある。 そんな啓太を配慮して、今まで我慢はしていたのだが。 ・・・ 首筋に鼻をうずめる。 「スカートって、楽ですね」 「え?」 「すぐに出来ます」 ね。 首筋に鼻をうずめて、へろりと舐めれば啓太の、鼻にかかった甘い声が出る。 するりと股に手を這わせた。 「下着も変えなかったんですね」 「だ・・・!か、変えて欲しかったんですか!?」 「変態理事長さんと同格にして欲しくはありませんね。 伊藤君がどんな格好でも、僕は好きです」 興がそがれるということはなかった。 むしろ、啓太らしいと思う。 ズボンのように邪魔なものはないから、柔らかいその布地のパンツを一気に引っ張る。 啓太が抵抗するまでもなく脱げてしまう。 「とても不思議じゃありませんか?」 「なっ・・・何がっ!?」 「だって、下着をとってもまだ布が残ってる。 ・・・でも、邪魔じゃないから取らないでおきましょう」 つっ・・・・と、人差し指でゆっくり辿る。 もどかしい感覚。 ぴくりと身体が固まる。 欲望は、まだ静かなまま。 それもまたアリかな、と思いながら、そっと握った。 感触はあるが、反応が視覚でわからないのでやりにくいかもしれない。 「そうですね・・・。このままじゃ、舐められませんから」 「っ・・?」 「こっちを舐めてしまいましょう」 人間の口内というものは、元々熱い。 舌なんて、熱を持っている。 布越しに突起を探し当て、舌でくすぐる。 そこが湿り、濡れたように色が変わる。 「や、七条さん、くすぐったいです」 「でしょうね。でも、このワンピース、背中にホックがあるんです」 「?」 「だから、僕は脱がせることが出来ません。我慢してくださいね」 そんな。 二つの性感帯からは、明確な刺激が与えられない。 布越しの突起への刺激なんてじれったいだけだし、 口内の刺激を知っている欲望も、手だけでは満足とはいえない。 もっともっとと、欲している。 「しちじょうさ・・・ァ」 「でも、仕方ないですから」 仕方ない。 繰り返しながら、濡れた突起をくりと親指で転がした。 痛みに混じる快感。 いや・・・・どちらかといえば、すでに快感に混じる痛みに変わっている。 必死に声を漏らすまいと唇をかんでいたら、人差し指を唇に横に当てられる。 くすぐられるように触れられ、唇を開ければその中まで指は侵入する。 歯に指の腹が当る。 「伊藤君の唇の形は、すごく好きなんですが・・・」 啓太を苛めるということに関しては、ワンピースというものは結構面白いんだけども、 視覚的な魅力は啓太の泣き顔だけという、 物足りないといえば語弊があるかもしれないけれども、ちょっと寂しいもの。 蜜を滴らせる欲望も、真っ赤に染まるその肌も、 赤く色づく独占欲の象徴のようなキスマークも、 ぷっくりと立ち上がる突起も、その全ては白い服の中に隠れてしまっている。 面白いけど、つまらない。複雑なものである。 指のせいでくぐもった声が出る。 「噛んでしまうと、唇の形が悪くなってしまいますよ?」 「でっ・・でも・・・っ」 「大丈夫。防音設備は完璧ですから」 そーゆー問題じゃないんだが、七条はわかってくれないみたいだ。 声を出したことにより指は口の中まで入ってしまう。 七条さんの綺麗な指を噛む訳にはいかない。 噛み跡は・・・つけられない。 啓太に悩む時間をたっぷり与えてやる。 それから、不意にぐりと鈴口に親指の腹をねじ込んだ。 「うぁっ!!?」 驚いたために思い切り七条の指をかんでしまい、 それにまた驚き叫んでしまう。 くすくすと七条が笑った。 「あぁ、ところで伊藤君」 必死で手を戻そうとスカートの上から手を押し戻す啓太に頓着することなく七条は尋ねた。 「このままでは遠藤君に頂いたお洋服が汚れてしまうのですが」 「!」 七条の腕を押していた啓太の手が止まる。 現在、なんとも間抜けな話ではあるが、七条の手によってある種蓋をされている状態。 出てくるものは到底綺麗だとは思えないし、 それで汚れたものを見たいとも思えない。 それに、こんな服を持っているのもどうかとは思うが、これしか服はない。 ここはホテルであって学園ではなくて、服がなければ学園には帰れない。 泣きそうになりながら困惑している啓太に、七条は笑いかける。 「僕としても、脱いでいただけた方が有難いですし、 伊藤君も、もうそろそろ我慢出来ませんよね?」 びくり、と身体が震えた。 きゅ、と七条が欲望を握ったためだ。 「で、でも、七条さ・・・」 「はい?」 「俺、これ脱げな・・・っ」 七条の手をどうして良いかわからず、身体を丸めたまま手を握ってしまう。 白いスカートは七条の手によって持ち上げられてて、あまり良い形とはいえないだろう。 ワンピースは、ホックが後ろについているものだから。 一人では脱げない。 当然七条もわかっていてのことである。 「じゃぁ、後ろを向いてください」 「え・・・」 「だって、脱がないといけませんから」 ね。 そういわれてしまえば、後ろを向かざるを得ない。 へたりと正座をして、欲望がスカートに当らないように気をつける。 スカートにいっぱいいっぱい膨らみを持たせれば、何とかなるかもしれない。 だけど・・この体制は結構きつい。 正座をしたまま、ゆっくり前かがみになる啓太に、七条は忍び笑いを漏らした。 「可愛いですよ」 ちゅ、と項に口づけて、 チャックを下ろした。 ズボンのチャックを下ろすよりも軽く、長く続く音。 チィ.......と降ろしていけば、健康的な肌が露になる。 そっとそこに口づけて痕を残した。 ・・・やっぱり、裸が一番だ。 「さぁ。後は一人で脱げるでしょう?」 「ぬ・・・脱げ・・・」 「脱いでください。僕は、遊んでいますから」 何と。 聞く必要はなく。 素早く啓太をまたもとの通りに寝かせると、上だけをずらして肩を露にする。 「触っているだけでも良いみたいですが、この方がもっと感じるでしょう?」 ざらついた舌が突起を転がし、犬歯でそっと噛んだ。 どこもかしこも、性感帯な啓太のこと。 誰でも感じる部分なら、なお更に。 酒が入っているからということもあるのだろう、だんだん抵抗はおざなりになっていって。 「くぅ・・・・ぅ」 顔を横に倒し、七条を見ないように勤めるのが、最後の抵抗となった。 涎が垂れているのかそれとも涙がこぼれているのか、マクラが濡れている感触。 「あ、あ、あ、七条さ、やだそこばっかやだっ」 「はい。わかってますよ。君のことなら、何でも」 左ばかり弄られていると、可笑しくなりそう。 暗に訴えれば、七条は笑って右の飾りに手を出した。 唾液によって光っている左とは対照的な赤。 なんとも不思議な眺めである。 人間のこれは2つで1つのはずなのに、なんとなく別のものに見えてしまう。 欲望のことは忘れてしまっているのかもしれない。 啓太自身から出た蜜は、すでにスカートの前部分を湿らせている。 それで啓太の機嫌を損ねてしまえば元も子もないので何も言わないが。 くすぐるように肌を触る。 「あ・・・あ、あ、あっ、や、だめっ」 それから。 啓太の放った物をひとすくい取り、つぷりと入れた。 慣れていないからか、驚いたように身体を固くする。 「伊藤君。力を抜いてください」 「や・・・ぁぁ・・・・」 本当に泣いているような声に、罪悪感と共に欲望がくすぐられる。 狭い・・・けれども、本当に狭いわけじゃない。 人間の身体というものは、全てにおいて柔軟に出来ている。 七条の欲望も飲み込めるわけだから、広がるはず。 広げられるだけ広げてしまおうと、欲望に触れてもうひと救い白い液体を後ろに塗りこんだ。 つぷ、と音が漏れる。 この行為は時間がかかるものだが、 仕方ないと思う。 こりと小さなシコリを見つけ、七条が笑んだ。 そして偶然を装うようにひっかく。 爪は短く切っているため、傷つけはしないだろうが、 敏感になっている体に内部からの刺激は強すぎる。 「うぁっ!!」 びく、と欲望が大きくなった。 「伊藤君。脱がなくても良いんですか?」 「なに・・・が」 「だって、何も出来ないですから」 啓太のスカートが見たいわけではない。 見たいのは、啓太が自分から脱ぐ姿。 自分だけが求めるのは、やっぱり癪でしょう? 啓太は暫く考えていたものの。 七条が指を抜いてしまえば後ろも前も疼いてしまい、どうしようもないらしい。 ならば自分で前を扱いてしまえば良いのだが、 それにもスカートが邪魔だった。 たかが布切れ一枚。されど布切れ一枚。 ほとんど残っていなかった理性を本能が押しつぶし、スカートを脱いだ。 といっても、手は震えて立ち上がる力も残っていない。 足で無様に足掻くのみ。 ズボンと違ってとっかかりの少ないワンピースは中々脱げない。 「も、やぁ・・・」 涙を流して七条に手を差し出す啓太を見て、 流石に七条も苦笑する。 手を取りキスをして、腰にからまっていたワンピースを足から抜いてしまう。 ・・女物につくったにしては、胴回りや肩幅がやや大きめに作られている。 もしかしたら・・・下手をすれば理事長作、ということも有り得るかもしれない。 ひくひくと蜜を零す啓太自身に軽いキスを落として。 ほぐれたところを見計らい、押し込んだ。 熱の塊。温度なんて知らないけど、絶対啓太の内部よりも熱いはず!! 熱いしでかいし、絶対サイズが可笑しいと思う。 悲鳴をあげる啓太の口にもキスを送り、 なるべく気を紛らわせる。 痛みを忘れるには、他の事で気を紛らわせるのが一番だ。 欲望を触りながら、キスをしながら、 狭い中をゆっくり進んでいく。 半ばこじ開けられている感じだが、 メリと引き裂くような音はしないのは安心すべきところだろう。 ・・・・・・・十分痛いけど・・・。 「はい。終わりです」 七条の膝に乗せられ、チュ、と瞳にキスをされると嬉しくなる。 はぁと息をついて、ぎゅ、と七条のシャツを握った。 掠れたような薄いピンクが、唇についている。 「お化粧でもしたんですか?」 「え・・・?」 「グロスが取れてしまっています」 七条にそういわれ、涙を拭われる。 視界が明瞭になれば、キスをしたせいか、七条の唇にグロスがついてしまっていて。 赤い唇。 掠れているのは、自分のグロスがうつったせい。 そう思うと、何だかすごく悪いことをしてしまっているようで。 味のついていないグロスを舌で拭った。 その動作が可愛くて、くすぐったくて、 くすくすと笑い、唇を拭う舌を絡め取った。 「動きますね」 言った瞬間、場所を探るように動かした。 最初は慣れないためかぎゅっと目をつぶり耐える所作だったのが、 何分か立つうちに、快楽に手が震えてきている。 「あ・・あ、七条さん、無理っ」 「はい。いってください」 許可が得られ、七条が扱けば、 互いの腹を汚すように白い液が飛び散る。 それと同時に、お腹の中で何かがはじけたように膨れ、 もっと熱い物が注がれた。 ++++++++++++++++++ へたり、と、ベッドで横たわる啓太に、七条はそっと微笑んだ。 仰向けにシーツを掴み、七条と顔をあわせない気だ。 それはそうだろう。 身体はさっぱりしているものの、痛みは残っているし、 普通に二日酔いで頭が痛いし、 それにそれに、我に帰ってみれば、服は無残な有様だった。 七条の服も然り。 仕向けたのは七条だが、汚したのは自分で、 怒りを何処に向けて良いのかわからない。 シーツにもぐる啓太の肩口につくキスマークに気をよくした七条は、 ベッドの端に座り込んだ。 「伊藤君。機嫌を直してください」 「・・・・・」 「気持ちよくなかったですか?」 「・・・きもち・・・いいとか・・じゃなくて・・・・」 耳の裏まで赤い。 耳の裏をくすぐってやりたくなる衝動にかられるのだが、 そんなことしたら怒られるだろうからやめておく。 「だ・・・あんなに・・・・」 さらに耳を赤くし、マクラに頭をうずめていく。 部屋に入ったのは夕方だったのに、お風呂に入ったのは夜中。 どういう事態だ、全く。 お腹がすかなかったのは、たくさん食べたケーキのせいだろう。 こうなるとケーキバイキングに関しても、何かの策略かと思わざるを得ない。 「伊藤君が好きで好きでたまらないので、たまに爆発しちゃうんです」 「・・・爆発・・・」 「伊藤君がこまめに発散させてくれると、こんな事態には陥らないと思うんですが・・・」 「・・・・・」 そうは絶対思わない。 例えば毎日やったところで、七条ならば夜明けまでやってくれるだろう。 つい考えてしまい、慌てて首を左右に振る。 「・・・ん?」 ふと何かがひっかかる。 部屋に入ったのは夕方。 お風呂に入ったのは夜中。 今は・・お風呂に入ってから寝たので、もうお昼だ。 お昼・・・・・・・・・・。 「・・・お昼っ!?」 ばっと顔を上げた啓太に、七条が驚く。 「し、七条さん、あの・・・」 「はい。外泊届けはちゃんと届けてありますから大丈夫です」 「・・・・・・・・」 結局、自分はこうなる運命だったらしい。 七条の計画としては、どこから啓太の運命は決まっていたのだろう。 ・・・最初から決まってたら・・・なんかヤだなぁ・・・・・。 なんか悔しくて、もう一度シーツの海にもぐりこむ。 「・・・ところで伊藤君」 「・・なんですか」 不機嫌なその声も可愛くって、つい声には甘さが加わる。 「先程服を買いに行ったんです」 「え!?嘘っ!だ、だって七条さんの服・・・」 「はい。伊藤君が汚してしまったので、僕の服だけはルームサービスで頼みました。 君の服は僕がちゃんと選びましたからね。 すぐ隣が、デパートなんです」 デパートがあくのは10時前後。 啓太は11時くらいまで寝ていたわけだから・・・・。 ・・・全然気づかなかった・・・。 七条に示唆されて気づくが、机の上には紙袋が一つ。 用意周到にトランクスまで用意されていて、なんだかちょっと恥ずかしい。 「伊藤君。どうしますか? 僕としてはどちらでも良いんですが、このままもう少し遊んでいきますか? それとも、学園に戻りますか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・学園に戻ります・・・」 広げた服は、白が基調のツーピースの服。 フリルこそ少ないが、可愛い系の服。 そう・・・丁度昨日和希に貰ったものに対抗するかのように。 基本的に露出は抑えられており、長袖だしスカートもくるぶしまでのロングスカート。 「・・・・ちなみに・・・これしか服はないんです・・・よね・・・」 諦めたような啓太の声に、『理解が早くて嬉しいですよ』と七条は笑んだ。 この格好のまま歩きまわるよりは、 すぐに部屋に戻って自分の服を着なおすのが一番良い選択だろう。 女の子の服を着て、女の子のようにエスコートされる。 ・・不本意だけど、仕方ない。 だって痛くて歩けないんだもん。 タクシーを呼んでもらい、バス停まで行って、そこからまたバスに乗る。 「・・・七条さんは、女の子の俺が好きなんですか?」 「どうして?」 「だって・・・こんな服用意してくるし・・」 男子校なのに女子がいることが珍しいのだろう。 バスの運転手が、ミラー越しにチラチラとこちらを見ている。 ・・悪い人じゃないと知ってはいるのだが・・・・。 「そうですね。それを身につけている伊藤君はとても可愛い」 「・・・」 女の格好してて気に入られてしまうと、 じゃぁ男の俺ってなんなのさって気にもなってしまう・・。 ・・・ちょっと悲しいかも・・・。 「でも、それは伊藤君だからだと思いますよ」 「え・・・」 「女の子の格好をしていても、男の子の格好でも、どんな格好でも伊藤君はとても可愛らしいです。 もっと自信を持ってください」 「自信って・・・」 そんな自信はいらない・・・。 ・・・けど、その言葉には安心した。 「お化粧もいりません。いつものままで十分愛らしい」 グロスのついていない唇と、ファンデーションのついていない頬をそっとなぞられる。 くすぐったい。 「まあ、ウエディングドレスを着てくださるのは、大変嬉しいのですが」 「なっ」 「伊藤君。どうやらついたようですよ」 バス停と学園島の距離は大してない。 啓太が問い詰める前に、手を差し出される。 まだ手を繋ぐのに抵抗はあるが、そうは言っていられない。 ・・・バスのおじさんの顔が見れない・・・・・。 とん、とん、とステップを降りて。 改めて・・・自室への遠さを思い知る。 何でこんなに広いんだこの学園・・・。 そっと啓太が下腹をさすった。 何かはさまってる感覚がするこの身体で、 果たして無事につけるだろうか・・・。 ・・・・・いや、つかなくてはならない。 そっと覚悟を決めれば。 ふわり、と身体が浮いた。 「うわっ!!」 慌てて近くのものにすがりつくのは、条件反射だ。 ぎゅ、と抱きついたのは、七条の首。 「し、しししし七条さーんっ!?」 慌てると共に、帽子がぱさりと落ちてしまう。 帽子の中から零れ落ちる明るい茶色の髪と青い瞳。 それは、その人物を伊藤啓太と判断させるには十分で。 「ハニーッ!」 どこかから匂いをかぎつけてきたのか成瀬がかけてきて、 中嶋と追いかけっこをしていた丹羽も啓太に気づき、 丹羽と追いかけっこをしていた中嶋は丹羽に気づき。 七条に気づいた西園寺と、人垣に気づいた篠宮が遠くからそれを見ている。 ・・・・・他、多数。 休日なのに寮に篭っている不健康な男子達が、啓太に、七条に気づく。 ざわざわとざわめく声に恥ずかしくなり、 ぷしゅぅと啓太がヒートアップしてしまう。 慌てて啓太を抱く力を強め、七条が笑った。 「さぁ、伊藤君。お部屋に戻りましょうね」 何でもいいからこの責め苦から解放してくれと叫ぶ啓太はこくこくと頷く。 そんな啓太に、七条は甘く甘く微笑んで。 人の視線の中、わざとゆっくり歩いていく。 啓太の腰に負担を与えないため、という名分で。 これは自分のもの、と示すように、強く強く啓太を抱きかかえて。 西園寺が自室でそれを見てため息をはき、窓際から逃げさる。 ふわり、と、啓太の落とした帽子が飛んだ。 ねえ、伊藤君。 知ってますか? 服を送る意味のことです。 今度は是非、僕に脱がせてくださいね。 ++++++++++++++++++ 一応人様に捧げるものですので表現を随分婉曲に表現してみました(笑) ていうか、普通に書いたら色気もなくなると思いませんか? ぼかしてぼかして。 ・・・・ぼかして? そーゆーシーン、まだ全然慣れていないので、温いですね。 MVP後でカップルになっている状態。 でも人前では手を繋ぐのにも慣れていない啓太に、七条さんは学園島の外でのデートを申し込む。 和希君は啓太に女装をそそのかし、結局啓太は可愛い女の子になり待ち合わせ。 しっかりお持ち帰りした七条さんは、身体が辛い啓太君を牽制を兼ねて抱きかかえながら学園に帰る、と。 そーゆーリクエストです。 ていうか、女装はリクエストですから!趣味だけど趣味じゃないから勘違いするな知人共!!(笑) (『好きだよねぇ〜』と何人に言われたか・・) うーん・・・それにしても何だか色々中途半端・・・(苦笑) 淡桜様に捧げます。 52000番、ありがとうございました。 無断転用は本人様以外は不可ですよ。 |