[お喋りしましょ]




土曜日の午後。

西園寺は用事だとか言うので出て行ってしまい、

啓太は一人ぽけらっとしていた。

ちなみに七条からお買い物と称したデートのお誘いがあったのだが、

西園寺の手前ということもあり、丁重に辞退させていただいた。



午前中は授業があるし、

和希と課題をやるから昼間は時間が潰せる。

話していれば時間などすぐに過ぎるから、

夕方なんてすぐに夜になってしまう。

・・・・その夜が問題だ。

一応様々なところから飲まないかとか一緒にお勉強をとかお誘いはあったのだが、

気分的にのらなくて、そちらも辞退させてもらった。

夜は大抵西園寺の部屋に行っていたか、自室で一人で・・・といった感じだったので、

別の人のところに行くのはなんとなく落ち着かない気がした。



「あーあ」



何をしようかなぁ。

結局、西園寺には今日は会えなかった。

朝は普通にそれぞれ授業を受けていたし、

授業が終って、すぐのバスで出て行ってしまったらしい。

会計室に行けば七条がいて、しばらくは話し相手になってもらったけれど・・・・。

今日の分の課題は終ってしまったし、

後は別段やることはない。

誰かに話し相手になってもらうのが、一番良いかもしれない。

問題は、相手は誰かということ。



あの人が無駄な装飾の類を好まないためか、

携帯にストラップとかはつけようとは思わなかった。

何もつけていない、ただの携帯電話。

前のは壊れてしまったから、新しい携帯電話。



電話帳を開き、音を立てて適当に検索していった。

遠藤和希。

鈴菱和希。・・・そういえば何で二つ入ってるんだろう。

別に理事長室にかけることは金輪際一生ないだろうから理事長室の番号入れられてもなぁ。

まぁ・・・メモリがいっぱいなわけでもないから、放っておこう。

それに和希の場合は、消したのがばれたら泣き出しそうだもんなぁ。



苦笑して、電話帳を眺めていく。



中嶋英明。

そういえば勝手に入れてくれちゃったんだっけ。

・・・別に良いけど・・・・電話しないだろうなぁ。メール?怖い・・・・。

丹羽哲也。

ていうか、最初に王様が入れたんだよな。

だから中嶋さんが入れちゃって。

でも、結構王様とは電話するなぁ。

メールもするし。

相談相手になってくれるからだろう。

頼れるお兄さんみたいで、とても素敵な人だと思う。

着信履歴の3件に1件が王様なんだもんなぁ。

・・・・その王様の電話の3回に1回が飲み会の誘いだというのが恐ろしい。

・・・高校生・・・だよな?

成瀬由紀彦。

成瀬さんからも結構あるかな。

だけど大抵が和希と似たような時間にかかってくるのが面白い。

和希から電話が通じないと文句の言われる時は、大抵成瀬さんと電話しているときだし、

成瀬さんから悲しそうに電話がかからなかったといわれたときは、

和希から電話が来た時だ。

・・・・二人って、なんだかんだで話が合うよな。

絶対、ちゃんと話をすれば仲良くなると思うんだけどな。

滝俊介。

何故か入っている俊介の番号は、

実は結構高頻度で使わせてもらっている。

便利だし、ただ話していても楽しいし。



メモリ番号を逆から見ていったので、

だんだん大事な人の番号が出てくる。



七条臣。

1番最初にあの人の番号を入れた後、

その場にいたので、七条さんの番号が2番目に入っている。

あの人と同じくらい、大事な人。



そして、メモリ1番。

西園寺郁。

強制的に携帯を買わされ、連絡手段だと入れられた。

だけど、たいして使うことはないかな。

大抵の約束は、口約束で十分だから。



本当ならば携帯電話なんて使わないで、ちょっとの距離だから歩いて直接話したいけど。

迷惑にならない人を探さないといけないし。



王様・・・・は今日中嶋さんと生徒会室で遅くまで残ってるって言ってたっけ。

七条さんが今日はサーバー塔にちょっかいをかけてもっと強化させるなんて言ってたから、

和希も却下かな。

成瀬さんと俊介はもうすぐ試合だし。

うーん・・・・後は。



首をかしげながら、

啓太がピッピッと操作音を立てながらメモリを見ていく。

・・・・結局、電話したいのは一人だけなのだが、

彼は今きっと忙しいだろう。



「あーあ」



とうとう、携帯電話をベッドの上に投げ捨て、

大の字になるように寝転んだ。

上を見ても、白い天上が目に映るだけ。



「何しようかなぁ」



寝てはならない時間というわけでもない。

お風呂にも入ったし、歯磨きもしたし、もう10時だし。

寝たところで支障はないのだが、勿体無い気がする。



「何しようかなぁ・・・・」



同じことを呟き、ごろりと寝返りを打った。



不意に。

電話が音を鳴らした。

耳元で急に鳴ったため、啓太が慌ててしまう。



「え?あ、わっ!!?」



携帯を手に取るものの、一度落としてしまう。

慌ててそれを広い、広げて耳に当てた。



「も、もしもし!」

『啓太か?』

「・・・・・・・・・・」



啓太が目を丸めた。

そして電話の表示を見る。

さっきは慌ててて表示を見ることなど忘れてしまっていたが・・・・・。

この声は・・・・。



「西園寺さんっ!?」



多分向こうで眉を顰めたのだろう。

少々低めの声で『五月蝿い・・』と声が返ってきた。

慌てて啓太が謝る。



「それで、どうしたんですか?こんな時間に」

『いや・・・別に何があるというわけでもないが、寝ていたか?』

「いえっ!全然!」



ぷるぷると頭を左右に振るが、それが西園寺に見えるわけもない。

ただ、それはまぁ気分の問題だ。



「西園寺さん、今どこにいるんですか?」

『・・・さぁ。どこだろうな』

「・・・?」



ちょっと悪戯そうな声に、啓太が眉をしかめる。

電話越しに聞こえる微笑の声が、さらに疑問を強める。



『お前こそ、今どこにいるんだ?』

「どこって・・自分の部屋に決まってるじゃないですか」

『ふふ。そうか?』

「・・・そうか・・・って・・・西園寺さん?」

『てっきり、誰かの部屋にでも遊びに行っているのかと思った』



・・・・・あー・・・もー、この人は・・・。

啓太が盛大なため息をつく。



「・・・・西園寺さん、酔ってますね・・?」



疑問系にしてはいるものの、それは確信。

強いわけでもないのに、回りにしこたま飲まされるから、

大人ばかりの集まる集会に行けば、西園寺は大抵酔って帰ってきた。

七条なんてザルだからいくら飲んだところで構わないし、

啓太は啓太ですぐに酔うものの顔にも表れるから回りが止めてくれる。

西園寺の場合、啓太よりは強いもののかなり弱いのに、

顔に全くでないから厄介だ。

七条か啓太がいない限り、周りは進め続ける。



『ふふ。どうだかな』



断れば良いものを、この人は断らないんだもんなぁ。

もう一つ嘆息して、とりあえず西園寺の好きにさせることにした。

ベッドに座りなおし、携帯の声を拾う。



「西園寺さん、外は暑くはないですか?」

『ん?そうだな。暑い』

「・・・・あー・・・すいません。会話の選択ミスです」



酔っ払いに温度のことを聞いても無駄だった。

壁に背をもたれさせる。



『今日は何をしていたんだ?』

「西園寺さんのいない間ってことですか?」

『そうだな』

「午前中は授業を受けてましたよ。

お昼は和希と成瀬さんと食べて、七条さんと少しお話をして、

和希と課題をやって、夜ご飯食べて、さっきお風呂から上がって歯磨きをして、

何しようか考えていたところです」



ふぅん、なんて納得したような声が聞こえる。



『・・・私がいなくて寂しかったか?』

「・・・そりゃそうですよ。西園寺さんがいないと、寂しいです」

『・・・そうか』



くすくすと笑い声が聞こえる。

・・・別に・・・良いけどね。

啓太までがつい釣られて笑う。



「西園寺さん、授業終ってすぐ行っちゃったじゃないですか。

お昼ごはん一緒に食べれるかと思ったのに・・・」

『いや・・・今日はどうせ授業は単位をとっているものばかりだったから、

授業に出ないでそのまま行った』

「ああ・・・そうなんですか」



それなら啓太が西園寺に会えなかったのも成る程だ。

苦笑いして、一つ頷く。



『何か変わったことはあったか?』

「・・・別に、特にはなかったですね。

何もなさすぎて、余計寂しかったですよ」

『ふふ。

正直、少し心配だった』

「何がですか?」

『お前は、私以外にも親友と呼べる人物はたくさんいるだろう?

私がいなくても平気なのかと思ったら、悔しくなった』

「平気だなんて言ってないじゃないですか・・・」

『そうだったな』



もぉ。

啓太が小さく怒ってみせる。



「それに、親友とか友達ならいっぱいいますけど、

恋人は西園寺さんだけです」

『ああ・・・そうだったな』



満足そうに、西園寺が『ふふ』ともう一つ笑う。



「俺は西園寺さんに会いたいですよ」

『今もか?』

「当たり前です。今日は一日会えなくて、寂しいってさっきから言ってるじゃないですか」

『・・・・そうか』



西園寺が少し思案して。

それから。



『一人か?』

「え?」

『今。お前の部屋には誰もいないんだな?』

「あ、はい。まぁ・・・」

『よし』



何が。

それを聞こうと口を開こうとすると。



コンコンと。

こんな夜更けにドアが叩かれた。



「あ、はい!西園寺さん、すいません。誰か来ちゃったんで、電話切りますね」

『いや。切る必要はない』

「・・・・へ?」

『切る時間があれば、早く開けろ。篠宮に見つかったら五月蝿いことになる』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」



まさか。

携帯電話とドアを見比べてしまう。

早くしろ、携帯電話から不機嫌になっている催促の声が上がって。



「・・・・・・・西園寺さん・・・何、してるんですか?」

「お前が寂しいというから来たんだ」

「・・・・そう・・・ですけど・・・」



ドアにもたれて呆れている啓太の横を、西園寺が通り抜ける。

携帯の電源を切ったということは・・・今までここに来ながら電話していたのだろうか。



「・・・西園寺さん、趣味悪いです」

「そうか?私の趣味は中々のものだと思うぞ」

「・・・」



勝手にベッドに座った西園寺を見て、啓太が苦笑い。



「お水飲みますか?」

「・・・いや、いらない。喉は渇いていない」

「俺のところ、薬なんてないですからね。

泊まるつもりですか?」

「帰るのも面倒だ」

「たかだか階段上るくらいのもんじゃないですか」



西園寺の隣に座り、啓太が笑う。

まぁ・・・二日酔いになったところで、七条のところにいけば薬の一つや二つあるだろう。



「何だ。お前は私といるのが嫌なのか?」

「そうじゃないですよ。嬉しいです」

「なら良いじゃないか」



心配してるだけなんだけども、

啓太のそんな言葉は聞くつもりはないらしい。

思わず苦笑い。



「・・・・明日」

「はい?」

「明日、出かけるぞ」



唐突な言葉だが、西園寺の場合今更だ。



「えー・・・・と、あの、何処にですか?」

「場所によってお前は行く行かないを決めるのか?」

「いや、そういうわけじゃないですけど・・・」

「なら構わないだろう。要はお前が暇か暇でないか、問題はそれだけだ」



・・・この人の中では明らかにもう予定が出来上がっている。

問題点なんて全く考えてないのだろう。

まぁ、確かに・・・・予定なんかないのだが。

伝えれば、西園寺が満足そうに頷く。



「何かあったんですか?」

「小一時間程前、臣から連絡が入った」

「はぁ・・・」



どこかからか取り出した携帯を少し弄り、

携帯を放って寄越した。

ベッドの上だが、落としてはならないだろう。慌ててキャッチする。

そこには七条のメールだろう。

いくつか会計部の仕事関連の用事が書いてあって。



「あの・・・これ、読んで?」

「一番下だ。読んでみろ」

「はぁ・・・」



西園寺の携帯と啓太の携帯は、同じ機種で。

だからこそ、操作を迷うことなく、メールを覗いていく。



「・・・・えーと・・・・」



一番下に書いてある・・多分この辺りの文章が西園寺の怒りを煽ったのだろう。



『ちなみに、伊藤君は現在横でお休みになっていますので、

安心してください』



・・・・・・何を安心しろと?

思わず首をかしげてしまう。



「どうしてお前はそう無防備で無自覚なんだ」

「どうしてって言われても・・・」



それで怒ったのか・・。

納得して、携帯を畳んで嘆息した。

西園寺に渡せば、それをまた仕舞いこむ。



「全く。お前は・・・」



反論したくても、一応小一時間ほど寝た事実は実際あるわけで。

反論できずに縮んでいく。



「それを見た私の気持がわかるか?」

「・・・・って言われても・・・」

「相手は臣だ」

「・・・・・」



七条さんに対する信頼はほとんどなくなってるみたいだ・・・。



「何をされたかわかったもんじゃないぞ」

「んでも、何もなかったんですし・・」

「あいつのことだ。何かされてる」



断言して、腕を組む。



「西園寺さん」

「お前は私のものだろう?」

「俺は西園寺さんのものです。だから、機嫌直してください」



言ったところで、西園寺が機嫌を損ねているのは事実で。

仕方ないなぁ。

啓太が一つ言って。

西園寺の頬に一つキスを送る。



「もう。何で西園寺さんが拗ねちゃうんですか。

さっきまで俺が拗ねてたのに」

「拗ねてたのか?」

「西園寺さんが、俺に何も言わないで行っちゃうからいけないんです」

「ああ、悪かったな」



西園寺が啓太の頬に触れ、こちらは唇へ。



「お酒臭いです」

「ワインだな」

「どれくらい飲んだんですか?」

「・・・さぁな」



バードキスを何度も落とされる。

合間に漏れるくすくすという笑い声。



「好きです、西園寺さん。貴方が来てくれて嬉しかった」

「それが聞きたかった」



良かった。

啓太が笑う。



「明日はどこへ行きますか?」

「そうだな・・。どこへ行きたい?」

「西園寺さんにお供します」

「ふふ。そうだな。どこへ行くか」



夜が、更ける。





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「ところで伊藤君。不思議に思いませんか?」
「何がですか?」
「伊藤君なら可愛いから酔わせて何かしてしまおうと思う輩がいないとも限りませんが・・・。
郁なんかを酔わせて、何が楽しいんでしょうかね」

なんて爽やかな会話を、
二日酔いと筋肉痛で寝込んでいる西園寺さんの隣で行っていただきたいです。
七条さん、是非(やめなさい)
啓太君が『ああ・・・わざと酔わせてるからあんなに飲んでくるんだな・・・』なんて、
その時に初めて気づいてみたりとかね!

ドラマCDは、あれは啓西でなく精神的に西啓だと信じていますが、
実は酔った郁ちゃんにノックアウトされました。
酔っ払いが啓太を無理矢理連れ出すところなんてもぉーーーvvv
だからか、酔っ払い郁ちゃんは多いですね。
啓太の言葉に顔を赤くする西園寺さんも好きですが、
わが道を貫く西園寺さんも好きです。
幼い頃から天才で、それゆえに未完成な完成型の性格がうんたらかんたらという公式設定。
一生懸命守ってるんですが、一生懸命さは伝わりますか?(笑)
以上、相互リンク御礼に、芦田様に捧げます。
西啓小説、最後はハッピーエンドなら何でもvということで、
一瞬何か事件を起こしてやろうかと不吉なことを考えましたが捧げ物なのでやめておきました(笑)
芦田様、有難う御座いました。これから、末永くよろしくお願いいたします。