●Secret●









『ナイショです』

って、七条さんはよく言うけど。

それは、すごく悲しいことだと思うんだ。



勿論、七条さんは頭もよくて、

俺に言えないことも、たくさんあるんだと思う。

会計部の仕事とかは、部外者に見せられないようなものもあるんだから、

仕方ない、とは思うけど。

でも、七条さんのことが大好きな俺としては、

七条さんのことは全部知りたいんだ。

それに、西園寺さんは多分知ってるから。

ああ・・・俺ってやっぱり、心が狭い。



「伊藤君」



不意に、柔らかな声が聞こえてきて。

やっと俺は、目の前に七条さんが居る事実に気づく。

唐突に現れた、綺麗な顔。

そりゃぁ、西園寺さんの方が綺麗なのかもしれないけど、

だけど・・・七条さんだって、すごく綺麗だと思う。

・・・まさか、本人には言えないけれど。

とにかく、急に現れたから、つい俺は驚いてしまって。



「わあっっ」



驚いてしまって、慌てて後ろにのけぞってしまう。

後ろが会計部の柔らかなソファだったから背もたれに受け止めてもらえたけど、

これが、例えば丸椅子とかだったら、俺は確実に頭を床にぶつけていた。



七条さんがクスクスと笑っている。

・・・恥ずかしい。



「何を考えてたんですか?真剣な顔をして」

「え?真剣な顔・・してましたか?」

「ええ。僕を見てくれなくて、とても寂しかったです」



七条さんの笑顔は、それは本音じゃないって言ってるけど、

だけど、七条さんの言葉に、思わず俺は謝ってしまい、また七条さんに笑われる。



コトリ、と紅茶を目の前に置かれた。

そうだ・・。俺は会計部に遊びに来てて、それで、西園寺さんが居なくって・・・。

そう、何で居ないのかって聞いたら、『ナイショです』って返されちゃって、

で、ナイショって言葉が何だか悲しくなって、七条さんが紅茶を淹れに行ったのを皮切りに、

それについて、色々考えてたんだ。

七条さんが戻ってくるのも気づかない程、真剣に。



思わず真っ赤になって俯いてしまう。

だって・・・何てこと考えてたんだろ、俺・・・・・。

七条さんが呆れてないかと、俯いたまま、少しだけ七条さんを見上げた。

何を考えてるかわからない、でも、そのくせ優しい、綺麗な笑顔。

そう、俺が見惚れてしまいそうなくらい、すごく優しい優しい微笑を浮かべてる。

そっと手を伸ばされて、顎をちょっとだけ掬われて、

俯いた顔を、元に戻される。



「何を考えてたか、教えてくれませんか?」

「え・・・と」



恥ずかしいから、あまり言いたくないんだけど。

でも、七条さんと違って、俺は隠し事が出来ない性質だから。



「七条さんが、何を考えてるのかなって・・・」

「僕が?」

「後は、西園寺さんがどうして居ないのかなっていうことと、

七条さんがさっき作ってたプログラムのことと・・・」

「・・知りたいんですか?」



一つ、頷く。

だって、やっぱり知りたいから。

好奇心は人一倍旺盛だし。



頷いたら、七条さんは困ったように、首をかしげて微笑んだ。



「秘密・・・ですか?」

「そうですね。出来れば、ヒミツが良いです」



ヒミツが良いです、ってことは、秘密じゃなくても良い・・・てこと、かな。

そう勝手に思って、俺は身を乗り出した。



「じゃあ、教えてください」

「そうですねぇ。伊藤君に教えてしまったら、僕は幻滅されてしまうんですけれど」

「そんなこと、絶対しません!」

「そうですか?」



クスクス笑いながら、七条さんは俺の髪の先をそっと弄ってる。



「そうですね。やっぱり、内緒です。君に嫌われたくありませんから」

「・・・」



ズルイ、って思ったら、それが顔に出てたのかもしれない。

七条さんが困ったような顔をした。

だけど、それはすぐに楽しそうな笑みに変わってしまった。

・・・・何でだろう。



「では、一つだけ教えてあげます」

「一つだけ?」



構いませんか?と聞かれて、頷いた。

七条さんのことなら、何でも知りたい。

そういえば、七条さんは綺麗に微笑んで。



「僕はいつも伊藤君のことしか考えていませんよ。

先程も、今も。これは、覚えておいてくださいね」



ね、と笑顔で言われて、言葉の意味を捉えるのをつい忘れてしまう。

・・・・何だか、すごーく恥ずかしいことを言われた気がする。



「しっ、七条さんっ!?」

「伊藤君にキスしたいとか、触れてたいとか、そんなことばっかり考えてますよ。

勿論、さっきもね」



俺が止めるのもなんのその。

七条さんは、俺の手を掴んで、色んなところにキスを落としていく。



「し、ちじょう、さん・・・・」

「僕が考えてることを教えてあげますね。

生憎、他の事はヒミツなのですが、僕の考えてることなら、ゆっくり教えて差し上げますので」



ヒク、と頬が引きつるのがわかる。

何だろう。俺からは七条さんの背中は見えないんだけど、

もしかしたら羽が見えるのかもしれない。

勿論、その羽は漆黒のものだ。



「幻滅しないでくださいね、啓太君」



そう優しく言う七条さんに、俺は何も抵抗できなかった。



結果として、勿論俺は七条さんに幻滅することはなかった。

だけど・・・これからは、西園寺さんのことは七条さんに聞くのはよそうと思った。

不用意に七条さんを嫉妬させてしまい、俺は翌日、授業に出ることは出来なかったから。



















○あとがき○

相互リンクをしてくださった彬元様へ捧げます。
七啓の甘い話をご所望ということで、頑張ってみました。
彬元様以外は転用禁止です。

とりあえず、七啓はラブラブ甘々が基本だと思ってるので、書きやすかったです。
にしても恥ずかしい話だなぁ・・・・(苦笑)

彬元様、相互リンク有難う御座いました。
これからも末永く、よろしくお願い致します。












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