[それ程君が好きだから] 確かに、離れている時間は、極々僅かなものである。 朝は、学校へいくまでひっついている・・・どころか、教室の前まで送るし、 帰りはHRが終われば、すぐに会計部に来てくれる。 その後は勿論一緒にいるわけであるし、 昼食は一緒にとるように心がけてる。 よって、実質的な時間に換算すれば、啓太といられない時間は、 生徒会から仕事が急に回ってきてとんでもなく忙しい時間を除けば、 平均5、6時間といったところだろう。 一日は24時間。 睡眠時間を含めたところで、一緒にいる時間は明らかに離れている時間よりも多い。 二人きりの時間も、たっぷりある。 それほどの多くの時間を共にしているのだが・・・・・。 「・・・はぁ」 やっぱり、離れている時間は、なんとなく耐え難い。 朝抱きしめた感触は、まだ腕に残ってはいる。 確かに男なのであるが、そうがっしりしているわけでもなく、女のように柔らかいわけでもなく。 単純に、身長と体系の差から、すっぽりと腕の中に入るサイズは愛しい。 抱きしめると、シャンプーの匂いが鼻をくすぐる。 その匂いに誘われるように唇に軽く口づければ、瞬間湯沸かし器のように一気に顔が朱に染まる。 今日なんかは慌てて七条から離れて授業へ行ってしまった。 可愛くて、愛しくて・・・本当にもうどうしようもないほどに愛しい存在。 何度自覚しても足りないほどに思い知らされるのは、 啓太という存在が、自分にとってどれだけ大事かということ。 隣の存在なんか、目じゃない位。 隣の存在――・・・西園寺は、そんな七条を鬱陶しそうに見た。 見なければ良いのではあるものの、現在会計部室には西園寺と七条しかいないし、 そもそも、隣でこんな顔をされてしまえば仕方ない。 今まではいつでもにこにこにこにこ仮面でもつけていたかのようなのに。 人間変われば変わるものだと感心していたのは最初だけ。 七条の変化を笑って流していたのも、最初だけ。 正直な話、今は・・・・・鬱陶しい以外の何物でもないわけだ。 「・・・・臣」 盛大なため息と共に、友人の名前を呼ぶ。 返ってきたのは、苦笑いだった。 「・・・今は、授業を受けていれば、本来なら教室にいるべき時間でしょう?」 七条の言葉に、西園寺は時計を見る。 今は本来6コマ目の授業を受けているべき時間。 西園寺達のクラスは、先生が学会に行ってしまったとやらで自習になった。 勿論自習といえども自分達のやるべきことがはっきりわかっているBL学園生徒であるから、 ただ無為に時間を浪費するなんて愚かなことはしない。 西園寺と七条は、会計部に足を運び本日分の仕事にかかっていた。 とはいえ、あまり進んではいないのだが。 「教室なら、良いんですよ」 「何がだ?」 「伊藤君がいなくても、空間的にいないのが当然だからまだ我慢出来るんです」 でもやっぱり少し寂しいですが、と七条が続ける。 言いたいことがなんとなくわかった気がして、西園寺がこめかみの辺りを押さえた。 ・・・・冗談でなく、頭痛が来そうだ。 「でも、会計部室には、伊藤君がいて当たり前だから我慢出来ないんです」 「・・・・・・知るか」 郁から聞いてきたんでしょう?と視線が文句を言っているが、無理矢理聞き流した。 啓太と付き合う前から、こういうノロケは聞いていた。 むしろ、何とか落ち着かせるために、気に入りの啓太とくっつける手伝いまでした始末である。 あれだけ頑張ったのに。 それなのに、何故。 (何故・・・倍増してるんだ・・・) 頭が痛い。 七条のノロケは留まるところを知らない。 勘弁して欲しいと願う西園寺は、正常なはずである。 啓太がいれば惚気るくせに、いなくても惚気るなんて、自分は一体どうすれば良いのだろうか。 生徒会へ逃げることすらも、一度真剣に考えたほどである。 未だ実行してはいないが。 そもそも、この会計部には啓太が居て当たり前ではない。 何せ彼は会計部員ではないし、たまには生徒会連中に捕まり手伝うこともある。 七条の脳内では、すでに会計部員のようではあるが。 まあその辺りは西園寺も同意見なので、つっこむことはしまい。 (さて、どうするか・・・) 西園寺が空を仰いだのと同時。 トントン、とドアが叩かれた。 返事と共に入ってきたのは・・・・待ち焦がれた啓太。 「啓太?」 「助けてくださいー」 ふえーん、と泣き出しそうな啓太の側に西園寺が行こうとすると、その前に七条が立ち上がる。 啓太の腕に乗っている大量の書類を七条が取った。 「どうしたんだ、こんな時間に。授業中だろう?」 「それに、これは生徒会の資料ですよね」 「今日は理科系の先生は皆学会に行っちゃってて、自習なんです。 俺のクラスは海野先生の生物で自習になってて・・・・。 それで図書室に行ってみようと思ったら、すでに単位取ってる中嶋さんに見つかって、 手伝ってたんですけど・・・・」 尻すぼみになっている言葉は小さくて聞き取れない。 もしかして、言わなかったのかもしれない。 言わなくてもわかるのだが・・・。 色々怖いメにあっちゃって、慌てて近くの書類引っつかんで逃げてきたのだろう。 「それにしても、啓太」 七条が書類を近くの机に置いて紅茶を作りに行ったのを見届けて、 西園寺が啓太に喋りかける。 「私達の授業が休みだったとよくわかったな」 「えっと、七条さんの授業の時間割、この前見せてもらってたから・・・・。 丁度同じ理科の授業だなって思って、何か覚えてたんです。 俺は生物だし、七条さんは科学だから、厳密には違うんですけど」 「・・・ふ・・・・・ん。そうか」 「昨日、和希が理科の先生は明日全員学会なんだって話をしてたから、 そういえば西園寺さん達も理科だったなって思い出して」 「それで、自習時間私達は会計部室にいるだろう、と」 結局、啓太にも惚気られているんだな・・・・。 そんな自分にため息を贈るが、はは・・・と苦笑している啓太には微笑を贈る。 「愛されてるな」 「ええ、勿論」 啓太の好きな味の紅茶とクッキーを持って、七条が戻ってくる。 西園寺のセリフに、啓太が赤面した。 無論七条の表情は変わりゃしない。 「それで、その遠藤はどうした。まさか生徒会室に置いてきたわけでもあるまい」 「和希は、今日は仕事です」 当然のように啓太の隣に座る七条をちょっとだけ見上げながら、啓太が答える。 仕事、という話を聞けば、そういえばあいつの本職は忙しいんだったなと思い出す。 普段の言動がまるで子供で変態だから忘れかけているが、 西園寺よりはるかに偉い立場にいるのである。 まあ、そんな権力など西園寺達にはどうでも良いが。 不意に啓太が、肩を抱かれて、座ったままポスンと七条の胸に頭を預ける形となった。 啓太がきょとん、と眼を丸くする。 「伊藤君」 「はい?」 抱かれてしまったため、七条の顔は頭一つ分上である。 見上げれば、寂しそうな七条の表情。 「僕はとても寂しかったんです」 「・・・はあ・・・・・。・・・・?」 ちゅ、と額にキスを落とす。 いつもは細めている紫色の瞳を揺らしながら。 演技であることは西園寺の目には明らかで。 ・・・・・・・・・・頭が痛い。 「あの・・・七条、さん?」 だが、啓太はそれに気づくには少々純粋すぎた。 何故か啓太までが眉を下げ、悲しそうにしている。 無論こちらは演技ではないだろう。 「あの・・・俺が何かしたなら、すいません・・・」 「いえ。伊藤君は悪くないんです。僕が勝手に思っていただけですから」 「でも・・」 しゅん、となった啓太に、七条が微笑みかける。 この後の展開は、西園寺の想像とさして違いはしないだろう。 仕事をするためにここまで来たのであって、こんなものを見るために来たわけではない。 だけど、言っても無駄だろうことも容易に予想できる。 どうしようもなくため息をつき、見ないように啓太の持って来た書類に目をやる。 一日24時間。 いっぱい一緒に居たところで、 ちょっとでも離れているとやっぱり不安だから。 一緒に居るときくらいは・・・ね。 寂しそうな声音のままキスをすれば、当然のように甘受される。 ぱたぱたと黒い羽がはためいていたのは、啓太の位置からはどうも見えないようである。 +++++++++++ 相互リンクお礼の小説として、吾妻さまに捧げます。 七啓で、啓太と恋人同士になって毎日が楽しくて仕方がない七条さんということでして。 ・・・・あれぇ? とにかく趣味に走ってみました。(止めなさい) とりあえず、啓太が好きで好きで仕方ない七条さん。 と、それに被害を受ける他2名。 ・・・こんなものしか書けない私ですが、これからも末永くお付き合いください。 吾妻さま以外は無断転用禁止です。 言うまでもありませんね。 |