エルニーニョとは、ガラパゴス諸島からペルー沖にかけて海面温度が数年に一度、
大規模に上昇する現象をいう。スペイン語で「神の子」を意味するこの現象は、
地球規模の気候変動を引き起こし、世界中に異常気象を誘発する。
1997年3月から始まったエルニーニョは、20世紀最大規模であった。
97年11月、その中心地、ガラパゴスを「第二の故郷」と自負する僕は、エルニーニョの
影響を調査するため現地に飛んだ。
82年から83年に発生したエルニーニョもすさまじかった。
今世紀最大の規模とされ「世紀のイベント」とまで言われていた。
餌を海に頼っている生物たちが、のきなみ大きな打撃を被った。
動物の中には半数以上も死んだり、いまだに棲息数を回復しきれない種もある。
一ヶ月あまりのガラパゴス滞在で一番感じたことは、やはり海に餌を頼る海イグアナ、
アシカ、オットセイ、それに海鳥たちの危機的状況である。長期に渡る異常現象は、
海中や海辺で生きている生物たちの体力を確実に消耗させていた。長雨は、動物た
ちの弱った体に病気をまんえんさせ、大量死をもたらす危険性も秘めていた。
帰化植物の勢力拡大も、深刻な問題である。大量の雨は帰化植物たちにとって
繁殖チャンス。大陸から持ち込まれた植物は、すでにガラパゴス全体の3割を占
めるまでになった。
猛烈な勢いで島固有の植物群落を襲っているのは、グアバやカスカレーニア、
エレファントグラス、ブラックベリーなどだが、こんどのエルニーニョで分布がさら
に広がったのは確実だ。巨大なエルニーニョの後に、ガラパゴスはふだん以上の
乾季が訪れるという。いわゆる「ラニーニャ」という異常気象である。
ガラパゴスはエルニーニョの後にもきびしい試練が待ち受けている。
近年、巨大なエルニーニョばかり起きている。はるか昔からあるエルニーニョと
は違ってきているとみる研究者も多い。人類が引き起こしている「地球の温暖化」
が何らかの要因となって、巨大なエルニーニョを発生させているというのだ。
たとえエルニーニョが発生しなくても、ガラパゴスは人為的破壊によって絶滅が
危惧されている生物がたくさんいる。諸島の大きさひとつとっても、そこでの繊細
な生物生態系の維持はたいへんだ。巨大なエルニーニョや繰り返される人間に
よる破壊が、遺産ガラパゴスを確実に蝕んでいる。 1998年
破壊かそれとも生き物たちへの試練か? 1998年 藤原 幸一
Photo by Koichi Fujiwara