"Love Love Love" 〜丹羽ED〜 婚約は、啓太の望むとおり、早い日取りとなった。 話が決まれば、とんとん拍子で進んでいく。 「・・・・はぁ・・」 輿入れは嫌だと思っていながら、 自分の格好を見れば、苦笑が漏れてしまうのも仕方がないだろう。 「綺麗ですよ、啓太君」 「・・・はあ・・・。あの、七条さん。何で俺はこんな格好を・・・重たいんですけど・・」 「帝には男だということは話してありますが、 男を嫁として迎え入れるのは流石に世間体がありますから。 それに、啓太君が男だということがバレてしまいますし」 「・・はぁ・・・」 とりあえず納得はするが。 びらり、と、長い袖を持ち上げる。 重い・・。 当然だ。十二単とはそういうものなのだから。 「出来たか、臣」 「はい。何とか」 啓太の姿を見て、西園寺が目を細める。 啓太を女官に任せるわけにもいかないので、着付けは全て七条が一人でやった。 それでも何とかなるところが、七条の七条たる所以なのかもしれない。 まあ、当然何人(匹?)か人型の式神を呼び出し手伝わせたのだが。 式神を元に戻し、着付けた啓太を満足そうに七条が何度も見回す。 「牛車を外に待たせてある」 「・・・それで、帝の所まで行けば良いんですね」 「ああ。髪が短いのは隠しようがない。が、まあ何とかなるだろう。 帝に失礼のないようにな」 「はい。わかってます」 十二単というものは、着物を引きずって歩いても良いものだろうか・・・。 歩くのも億劫なその服は、やっぱりどう見ても重たい。 西園寺や七条の見立ては間違っていないのかもしれないが、 自分にこの豪華な服が似合うとは到底思えない。 気づかれないように小さく嘆息し、ゆっくり歩き出す。 牛車に乗るのが億劫だと思われているのは救いだろう。確実に。 まさか折角見立ててもらった服を気に入らないなんて言えない。 いや、確かに婚約だって気が重たいのだが、 そこはそれ。ポジティブ思考な啓太だ。 西園寺が悪い人間ではないというのだから、悪い人間ではないだろう。 もしかしたら良い人かもしれない。いや、きっとそうだ。 ただ、一つ気になると言えば。 (・・・王様・・) 空を見上げれば、そこは太陽。 あの人のようなそれは、ただし手が届くことはない。 啓太の下へ帝からの話が来た後、丹羽は一度も啓太の元を訪れなかった。 中嶋も来なかったから、仕事をしているのだろう。 仕事をするのは啓太の部屋ではなく、公務室だ。 わかっているのだ。 だけど、一抹の寂しさを心は訴えてくる。 それでも、まさか西園寺達に『王様に会いたい』と訴えられるわけもなく。 とうとう、今日のよき日となってしまった。 ゆったりと歩いていると、隣に七条が立つ。 気配に気づき顔をあげると、にっこりと微笑まれ、手を取られた。 「一緒に行きましょう。途中まで」 「あ・・・はい」 花嫁を送る兄のような気分なのかもしれない。 いや、本当の兄は啓太の後ろで憮然とした表情をしているのだが。 ++++++++ 「啓太君は好きな人はいないんですか?」 初めて、西園寺家の大きな玄関に立つ。 それまで、西園寺の家に居たのに、初めて。 外の土は柔らかく、部屋の中から外を見るより遥かに明るく太陽は照らしてくる。 門前に止まっていた牛車。 乗り込もうとして、七条が声をかけた。 唐突の七条の問いに、啓太が首をかしげる。 何故、今聞くのだろう。 「いませんか?」 「・・・えと、俺、七条さんも西園寺さんも、好きです」 「・・・そうですか」 紫色の瞳が、細まる。 「それでは、今。君が一番触れたいと思う人はいますか?」 「触れたいと・・・思う人?」 「君が知っている中で、一人だけ、今君とお話が出来るとします。 そうしたら、今、君は誰とお話したいですか?」 「一人だけ・・・ですか?」 「一人だけ」 ゆったりと、七条が啓太の髪を撫でる。 そうすれば、啓太は全てを言ってしまいたくなる。 七条の、不思議な魔力が、そうさせる。 「・・・おう・・さま」 「はい?」 「王様に・・・会いたいです。少しでも、お話したい・・」 少しだけ、潤んだ瞳で、啓太が訴える。 今度こそ、満足そうに微笑んだ七条は。 「それでは、会いにきていただきましょう」 「え・・・?」 「それが、啓太君の望みですから」 ほら、と。 七条が、牛車に乗り込みかけてた啓太の手を引き、引っ張り出す。 「啓太!」 走ってきた男は、確かに、啓太の望んでいた男。 「な・・・なんで・・・」 「だって、啓太君のお願いですから」 「え・・・えぇ!?」 いまいちわけのわからない主張に、啓太が混乱する。 だけど、走ってくる男は、確かに。 「王様!!」 走ってきた男に、啓太が抱きつく。 首根っこにかじりつくように。 やっと会えたこの人に、少しでも多く触れていたいと。 「郁ちゃん!啓太、貰ってくな!!」 そんな啓太を抱き上げたまま、丹羽が西園寺に向かって言葉を投げる。 ・・・貰ってく? 啓太が言葉の意味をしっかりわかる前に、後ろから中嶋が歩いてくる。 「おや。中嶋さん」 「・・・ふん。そこのでかぶつの説明が足りなかったようだが。 啓太。お前は正式に丹羽家の籍に入ることになった」 「・・・・・・・・は?」 「言っただろう、啓太。お前の望むようにする、と」 西園寺と、七条の顔を、啓太がかわるがわる覗き込む。 ため息をはきながら、諦めたような表情をする西園寺。 にこにこと、自分に笑いかけている七条。 ・・・この結末は、どういうことだ・・? 「最後に、啓太君が彼の元へ行きたいと言わなければ、 そのまま帝の所へ輿入れする予定だったんですが」 「え・・・と・・・あの・・・・え?」 「帝の許可は取ってある。西園寺と丹羽からの重圧だ。いくら帝だからといって逆らえまい」 中嶋の、その笑みが恐ろしく、つい丹羽へ抱きつく腕に力を込めてしまう。 「西園寺と血が繋るということは、丹羽の家にとっても有益なことだ。 それに、一応丹羽は俺の主だ。話を聞かないわけにもいくまい」 「そーいうこった」 「え・・・そういうこと・・・って、え、と・・」 「深く考えるな、啓太」 「そうですよ、啓太君」 二人に言いくるめられたところで、納得できる内容ではない。 ただ、一つ。わかることは。 「・・・あの・・・よ、啓太」 「はい・・?」 「そういうことで話が進んじまったんだが・・・良いか?」 くすりと、啓太が笑う。 ここまで話を進めておいて、『良いか?』も何もないではないか。 ちょっとだけ赤くなった頬を隠すように、丹羽の胸に頭を擦り付ける。 「はい。王様が良ければ」 七条に問いかけられて、やっと形になった、もやもやとした思い。 会いたいと、切に願ったのは、この人が好きだったから。 知らない人に嫁ぐのが嫌だったのは、この人の所に嫁ぎたかったから。 わかれば、それは、とても簡単なこと。 「啓太・・・」 「王様の、好きにしてください」 太陽が、空で輝く。 そんな中。 西園寺家の一人娘(息子)は、丹羽家へ嫁ぐことになったのだった。 まあ、当然、それから平和な新婚生活が送れるわけがないのだが。 今は西園寺も七条も中嶋も大人しくしているから。 今のうちに幸福を感じられるだけ感じとけと、腕の中で照れる啓太を、強く抱きしめた。 ○END○ 隠しED(中嶋ver) ●あとがき● あーもう、書いてて恥ずかしいなぁお前等っっ!!(笑) 可愛い啓太は書いてて楽しかったです。 最後まで啓太の望む通りにさせてあげた西園寺さん。 偉いですねぇ。貴方。 丹羽が頑張ってます。 いえ、頑張ってるようでその実頑張ってるのは中嶋たちなんですが。 十二単、重くないですか、王様? 中嶋と七条の陰陽師っぷりをもうちょっと出したかったのに、無理みたいです。 ということで、三番目は王様ED。 一番可愛い啓太ですね(笑) それにしても、啓太と結婚出来ないのは西園寺さんだけなんでしょうか。 七条も丹羽も、婚約しちゃうのにね。ごめんね、郁ちゃん。 |