"Love Love Love" 昔々。 美人だと、とても有名な女子が一人、 おりましたとさ。 ++++ ふんわりと、良い香りが部屋中に漂った。 「すいません、七条さん。いつもいつも・・・」 申し訳なさそうな声は、御簾越しに。 香を焚いたのであろう本人の声。 女のように高い・・・というわけでもないが、 男のように低すぎる声でもない。 中性的な声、とでも言うのだろうか。 その声に、珍しい銀の髪を持つ男が、にっこりと微笑む。 柔和・・・といえば聞こえは良いのだろうが、 なんとなく、柔和と一言で言い表せないような何かがある。 「構いませんよ。啓太君が元気で居るように見るのは、僕の役目ですし」 御簾越しの会話・・・というのが彼にとっては少し不満ではあるものの、 まあ、仕方がない。 この時代、女との対面は基本的に認めてもらえていないのだから。 すたすたと、忙しい足音が聞こえる。 「臣!いるんだろう出て来い!」 声は迷わず近づいてきて。 彼の部屋の前にいる七条を、正装を着付けた西園寺が睨む。 「何をやってるんだ。公務の時間だろう」 「ええ。ですから、公務を。ねえ、啓太君」 「え・・・あ、えと・・・」 困ったような声。 顔が見えないのが、悔しい。 そんなことを二人が思えば、御簾の持ち上がる雰囲気。 「啓太。開けるな」 「え・・・でも、折角西園寺さんも来てくれたんですし・・」 「兄だろうとなんだろうと、女が男に顔をほいほい見せるな」 「でも・・・」 きっと眉が下がってるのだろうな。 少し前に見たばかりの顔を思い出して、七条が笑う。 「でも、俺、女じゃないから別に・・・」 とりあえず御簾を開き、啓太が恐る恐る西園寺の顔を覗き込んだ。 有名な、西園寺という一族がある。 そこに、絶世の美女と歌われる美女が、一人。 女子が一般的に外に出ないから、 噂が一人歩きすることも良くあること。 だがしかし。 西園寺家現当主である西園寺郁と、 その幼馴染である、陰陽師七条臣。 その二人が、たいそう過保護に守っていると聞けば、 それは当然、噂になるわけであって。 絶世の美女ということで、京の人々の噂の的に、なっている。 だがしかし、その絶世の美女であるようにいわれているのは、 『啓太』という、男の子である。 では、それが何故絶世の美女と歌われているのかと言われれば、 一重に、陰陽師の占いのおかげであったりする。 この時代、陰陽師の占いは、絶対だ。 啓太が生まれた際、 『この子は、このままでは神に見初められ、若くに死ぬでしょう』と、 そういうお告げが来てしまい。 神に見初められるのを何とかするには、 『啓太』という人物を隠すのが一番だという、陰陽師の言葉に従い、 啓太を女として扱ったのである。 綺麗なおべべを着せて。 蝶よ花よと可愛がり。 啓太が、『自分は実は女ではないのではないだろうか・・・』という疑問を抱いた頃には、 時、すでに遅し。 西園寺の当主は、幼い頃から可愛がってくれた西園寺郁へと変わっており。 自分の付きの陰陽師は、幼い頃から守ってくれた七条臣で。 その二人に、言いくるめてしまわれれば、 啓太一人の力では、どうしようもならない。 唯一の救いはといえば、ここが離れであり、 当主の郁か、もしくは啓太の様子を見に来る七条しか来ないことから、 西園寺家という有名な家に居るのに、 十二単などという、重苦しい格好をしなくても良いということか。 「・・・・でも、啓太君。僕達意外を、こんな風に呼んではいけませんよ?」 「だ・・大丈夫ですよ。 だって、俺が女だってばれちゃ、西園寺家の汚名になっちゃいます」 結局、啓太の御簾の中へ招き入れられた七条と西園寺。 心配そうに言う七条に、心配はないと啓太は言う。 「別に、啓太が男とばれたところで西園寺の家名に傷がつくとは思わないが、 だが万一に越したことはない。絶対だ、啓太」 「はい」 西園寺家当主が可愛がっているという噂の立つ啓太だ。 男だとわかっても不埒なことをする輩が出ないと言い切れないし、 何かの交渉の材料にと攫われる可能性もある。 そんな西園寺や七条の気持ちもわからず、 ただ、男なのに武士にもなれず、 完璧な女でないから近くの有名処に嫁に行き親族を増やすことも出来ず、 西園寺家の足手まといにしかならない己を、これ以上足手まといにならないようにと、 啓太は自分を戒める。 「・・・・さて。臣、ゆっくりしていたいところだが公務だ。行くぞ」 「郁一人ではダメですか?」 「・・・・。臣。啓太は今、元気だ。悪霊に取り付かれている様子もなく。 お前がいる必要はないだろう?」 「はいはい。すいません、啓太君。すぐに戻ってきますからね」 「あ、はい」 「七条の家に帰れ。家に帰ってくるな」 「だって、あんな人の所にいるよりも、啓太君の側に居た方が有意義じゃないですか」 西園寺の睨みを、平然と流せるのは七条くらいではないだろうか。 啓太がふとそんなことを思う。 御簾が降ろされ、足音が遠ざかる。 こうなれば暫くは帰ってこないだろう。 公務というものは、そういうものなのだ。 実際にやったことがないのでよくわからないが。 正体がばれてしまうと大変なので、近くに人はいない。 必要な物は全てこの部屋に揃ってしまっているので、人が必要ないのだ。 さて、どうしようかと啓太が周りを見回した。 「とりあえず、本でも読んで退屈を紛らわしてようかな」 「内緒で・・・外に、出ちゃおう・・・かな」 ●あとがき● 26000番の、淡桜様からのキリリクです。 学ヘヴで、長文調で、平安調のパラレルというリクエストでした。 郁ちゃんと義兄弟ということでしたが、普通の兄弟になってしまいました・・・。 あの、郁ちゃんと啓太君は兄弟です。はい。そういうことにしてください。 臣さんは陰陽師です。 啓太を女の子として育てないと死んじゃうって言ったのは多分臣さんのパパです。(笑) 郁ちゃんのパパは死んでしまったので、郁ちゃんが西園寺家現当主です。 多数エンドというリクエストも追記で頂きましたので、 分岐式ノベル・・・って、私初挑戦なんですが、大丈夫なんでしょうか・・。 えと、7人は頑張る・・・と・・・思われ、マス・・・・が、 中嶋さんは・・ダメかも・・・・。 出来れば頑張りたいのですが・・・。 うにゅー・・。それにしても、タイトルセンスないですねー・・・。(涙) |