"Love Love Love" 〜西園寺ED〜 帝との今までの関係が綻びるかもしれない。 そんな危機を抱いている西園寺家の現当主は、 満足そうに笑んでいた。 それに七条も笑む。 「嬉しそうですね、郁」 「まあな」 なんとなく原因はわかっているものの、 楽しそうな彼に苦笑する。 「啓太が私を頼ってくれたんだ。嬉しくないわけがないだろう」 不本意ながらも、籠の中の鳥のような状態である啓太。 彼が頼る物など、世界に二つしか存在しないのだ。 七条か、西園寺か。 帝の元へ嫁がせろと命が来た時、 啓太が籠の鳥でなく、外へ羽ばたくのを望むのならばそうしようと決意した。 だが、啓太はそうではなかった。 ただ、西園寺の側にいることを選んだ。 自由ではなく。 それが無条件に嬉しい。 「それより臣。大丈夫なんだろうな」 「ええ、それは。噂の美姫は悪霊に憑かれやすいと評判ですから、 この屋敷には結界が張ってあるとか何とか、適当に言えば何とかなりますよ」 「そうか。七条の家は帝からも信頼がある。その辺りは任せたぞ、臣」 「はいはい。・・・それにしても、啓太君が郁でなく僕を頼ってくれたら、 もっと簡単な方法が他にもあったのに・・・。残念です」 「その『残念』は、他の方法を使えなかったことか?それとも・・」 「勿論、啓太君が僕を頼ってくれなかったことが『残念』なんです」 「臣」 「はいはい」 くすりと笑う姿が妙に頭にくる。 だがここで怒鳴るわけにもいかないので、何とか落ち着かせる。 「臣。啓太に手を出すなよ」 「それは、啓太君が郁の弟だからですか?」 「私が啓太を気に入っているからだ。 弟だからといって私は無条件に他人を側に置いたりしない」 「そうですね」 西園寺が『弟だから』という理由で側に置くことを許しているのならば、 今頃西園寺家の兄弟達は僧になどなっていなかっただろう。 西園寺は無駄を酷く嫌う人間であるから、 『西園寺家のしきたり』以前に、無能な人間を側に置くことが許せなかったらしい。 私腹を肥やし、周りを見ない兄や弟は、即座に切り払った。 そして、残ったのは、女として育てなければならなかったために俗世間から切り離した、 啓太、一人だけであった。 俗世間から離れている分、純粋で。 なるほど。絶世の美女というには少々頼りない容姿ではあるものの、 七条も西園寺も、他人に聞かれれば答えるであろう。 『アレは、確かに美姫である』と。 美しいのは、姿でなく心。 純粋な彼は、どこまでも人を惹きつける。 好きです、と。 純粋に、全身からこちらを信頼してくれるから。 愛しい、と。 こちらも、純粋な気持ちを持つ。 でなければ、『親から頼まれた』やら『しきたり』やら、 なんとも頼りない理由で七条と西園寺の二人が啓太を守るわけもない。 何せ二人共、親はどうでも良いし、 しきたりなんぞ自分に意味のないものならば知らぬ存ぜぬを決め込むのだから。 信じるのは己のみ。 彼を守りたいのは、己がそう、強く思うから。 それだけ、である。 「啓太は可愛い。お前もそう思うだろう?」 「ええ、そうですね」 すたすたと優美に歩く西園寺の、一歩後ろを七条がつく。 帝の御前に出る為に。 「啓太が望むのなら、私はあれを何処へもやらない。良いな、臣」 「はい」 御簾の中で、ただ己を忠実に待つ彼を想う。 外に出たいと、望めば出してやるのに。 それを望まずに、御簾一枚向こうの世界を、御簾を開けばつかめる自由を望まずに、 自分が帰るのをただ待つ。 絶世の、美しい心を持つ彼は。 今まで西園寺に嫁ぎたいと懇願した数多の本物の美女よりも、遥かに美しく。 西園寺は数多の美女よりも、それを欲した。 彼の、心を。 自然な成り行きである。 男女は子を生すか生さぬかの違いである。 女ですら子を生さぬ者もいるくらい。 されば、同じであろう。 子を生さぬ女も、子を生すことの出来ぬ男も。 それならば、姿の美しい娘よりも、心の美しい子を。 そう、思うのは自然の成り行き。 彼が望むのなら。 それは全て、望む通りに。 世界を狭めた彼への、西園寺の珍しい罪滅ぼし。 彼が何処へも行きたくないと言うのなら。 何処へもやらない。 それがたとえ、神の子孫であろう帝であろうと。 神に魅入られぬために女と隠した。 神の子孫に魅入られては、元も子もない。 だから、渡さない。 ++++++++ 『七条』の家の名は、効果絶大。 その七条の跡継ぎになるであろう息子が言うのだ。 帝が強く言えるわけもない。 そして、平穏が戻る。 「啓太。最近どうした?」 「え・・?どうした・・て・・?」 「私を見ようとしないだろう」 くいと、顎を持ち上げて青い瞳と緑の瞳が交わる。 ほわりと、啓太の頬が赤く染まる。 その様に、何故だか西園寺が満足そうに笑って。 「え、いや・・・別にっ」 「そうか?」 いつまでも離そうとしないばかりか、 首をくすぐる西園寺に離してくれと訴える。 が、聞くわけもない。 「郁。あまり啓太君を苛めては可哀想ですよ」 「ふん。苛めているわけではない」 「さ・・・西園寺さん・・」 頬に軽く唇で触れて、西園寺が啓太を解放する。 七条が苦笑する中、西園寺は満足そうだ。 まだ気持ちが整理出来ていない啓太と。 確実に啓太の心を欲する西園寺と。 どちらが強いのかといえば、無論後者であるわけで。 「さ・・・西園寺さん、公務は・・」 「今日は良い。物忌みだ」 「そんな・・」 困ったように眉を下げる啓太に、気づかれないように西園寺と七条が微笑む。 後は。 啓太が兄弟だという悩みを吹っ切るのが先か、 それとも西園寺に無理矢理に押し込められるのが先か。 それだけのようで。 どちらにしろ、結末は変わらない、であろう。 耳まで真っ赤になる啓太を見て、西園寺が耐え切れずに小さく声を立てて笑う。 「西園寺さんっ」 「悪気はないんだ」 「悪気があるとかっ・・ない・・・とかっ」 笑う西園寺は確かに綺麗であるので、 啓太は余計赤くなり、それを振り払うように声を上げる。 ゆうるりと雲が流れる中。 さて。二人の関係がやっと変わるのは、あとどれくらい先になるのだろうか。 流石にそこまで占うことは出来ぬな、と。 七条が、二人に気づかれないようにこっそりと笑った。 ○END○ ●あとがき● やっぱり最後はお前か七条っ!! どうあっても七条かっってな話ですね。 自分でもアホらしいと思いました。 流石に全員分書くと長ったらしくて飽きるかと思われるので、 軽くさらりと流せるお話にしました。(どの辺りが?) 啓太悩んでますが、そんなん西園寺の前じゃどうでも良いですね。 多分西園寺が行動起こす方が早いと思います。 男らしい郁ちゃんは好き。 ということで、郁ちゃんED。 一番最初に書き終わりました。 |