"Love Love Love"
〜七条ED〜





紫色の瞳を、つい見る。

行きたくない。

この人が居ないところには・・・。



幼い頃から自分の側に居て、

自分を何からも守ってくれた存在。

憧れに似た、淡い思いを抱くのも、可笑しくはない話である。



啓太の視線に気づいたのか、七条が安心させるように笑う。

それに、頬が上気するように赤くなった。



「大丈夫ですよ、啓太君」

「え・・・何が・・」

「僕が何とかしてあげますから」



その言葉に。

無条件に啓太が安心する。



いつもそう。

昔から、魔に魅入られ床に伏していると、

いつの間にか七条は隣に居て。

『大丈夫ですよ』と。それだけをいうのだ。

大丈夫ですよ、と言われ、頭を撫でられると、

本当に大丈夫なのだと思う。

だって、七条は嘘をつかない人だから。

今回も、大丈夫。



「・・・・・臣。啓太を離せ」

「ふふ」



西園寺が七条を睨むが、それは何処吹く風。

自分の方へ寄って来てくれた啓太の髪にそっと手を通し、

安心させるように何度も何度もゆっくり撫でる。



可愛い啓太。

七条が、簡単に手放すわけがない。

それが例え、帝であろうが神であろうが。

啓太を嫁に。

そんな羨ましい立場につかせるわけにはいかない。

そんなこと、自分がさせない。

彼がそう願うのならば、尚更。



「・・・・でも、やっぱり断ったら角が立つし・・」

「啓太はそんなことを気にしなくても良い。言っただろう。

それに、帝は婚姻を断ったくらいで家を潰すような公私混同はしない人だ。大丈夫だろう」

「でも・・」

「・・・それなら、理由を作りましょう。帝が、諦めなければならない理由を」

「・・・理由・・ですか・・?」



コトリと、啓太が首をかしげる。

その所作に、七条が『可愛いですね』と笑った。

それに真っ赤になる姿も、可愛い。

可愛い存在を守りたいと願うのは、

人間としては、当然のこと。

だから、長い間守ってきた。

悪霊から、人間から。

大人の世界へと早々に足を踏み入れた七条にとって、

啓太は癒しそのものである。

父に守れを命じられた時は、何も思わなかった。

嬉しいとも、面倒だとも思わず、それが役目なのだと。

それを役目ではなく、本能的に守りたいと思ったのは、啓太に会ってからだろう。

純粋な笑み。

守る・・・というよりも、話し相手として七条を紹介された啓太は、

まだ幼く、理解はしていないのに。

『トモダチ』という、至極簡単な親からの説明を受けると、嬉しそうに手を差し出して、

七条に笑いかけた。

よろしく、と。

汚い世界へ入るのが当然となってしまった七条にとって、

それは、美しい物だった。

守りたい。

心の底から思うのも、当然の流れ。



そして、それが『好き』だという感情へ発展するのも、

当然の流れ。



「ええ。帝を納得させるような理由があれば、啓太君はいかなくても済みます」

「でも・・帝が納得してくれるような理由って・・・よっぽどですよね・・」

「臣。変なことを考えるなよ」

「どうでしょう」



西園寺がこちらを睨むが、それに笑みで対応する。

だって、啓太は自分を頼ってくれたのだから。



「そうですね。例えば・・」

「例えば?」



期待するようにこちらを見上げる啓太の頬に手を沿え、口づけをして。



「例えば、啓太君は僕の許婚だということにしてしまえば、どうでしょう」

「臣!」

「啓太君は女ということになっています。

一夫多妻制度がありますが、啓太君を妻にと言うのでしたら女と扱われるのでしょう。

夫が居れば、妻の事情だけでは婚約破棄は出来ないわけですし、簡単でしょう?」

「でっ・・でもっ・・」

「でも?何か不都合がありますか?」

「ある。大体、何故臣の許婚ということにならないといけないんだ」

「だって、郁の許婚だと可笑しいでしょう?遠い親族ならまだしも、兄弟ですよ?

かといって、手頃な人間が側に居るわけでもありませんし・・・。

一番確実な線を選んだのですが、どうでしょう?」

「どうでしょうもなにもない!」



怒る西園寺に、飄々と答えを返して。

・・いくら兄だからと言って、啓太を渡そうなんて甘いことは考えない。

だって、もう自分のにすることに決めたのだから。

彼が自分を頼ってくれたとき。

やっと時が来た、と思った。

今なら、啓太を迎えても、彼に拒否をされない、はず。

柔らかな笑みを浮かべて、七条が啓太を見る。

西園寺に向けるより、遥かに柔らかで甘ったるいソレは、

啓太の頬を、赤く染めて。



「啓太君は、ダメですか?」

「だ・・・ダメ・・・じゃないですけど、でも、七条さんの本妻の方がどう思うか・・・」

「大丈夫です。僕はまだ独り身ですし、身を固めるつもりはありません。

ただ、啓太君なら良いかなと思うのですが・・・・。

啓太君がよければ本妻でも良いのですが、どうでしょう?」

「どうでしょう・・・って・・・」

「それとも、啓太君は僕ではダメですか?」

「ダメじゃないです!ダメじゃないです・・けど・・」

「それは良かった」



『けど』の先は聞きたくないから、わざと遮る。

そして、啓太の了承を得た後にもう一度西園寺を見て。



「それに、夫が居れば啓太君が男だと思われることはもうなくなり、

もっと啓太君の身の安全が図れると思うのですが」

「・・・」



自分が優位に立ったからという笑み。

眉を顰めて、西園寺が不快の意を称する。



「啓太の好きにさせろ」



最後の負け惜しみ。

それに、七条は満足そうに微笑んで。



「郁はこういっていますが、どうでしょう?」

「・・・えと・・・あの・・・・その・・。

・・・じゃあ・・・迷惑でなければ・・・宜しくお願いします」



ほわりと頬を染めて、興奮した形での。

小さな告白。

満足して笑む。



「それでは、早速その旨を帝に伝えて啓太君は諦めていただきましょう」



そっと髪の毛に口づけて、伝える。

棚から牡丹餅。

ふとそんな言葉が頭をよぎり、

その旨を伝えるついでに、お礼でも言っておこうかなと思う。

勿論、啓太は渡さないが。






+++++++++++






七条の籍に入れたとしても、

西園寺がみすみす啓太を手放すわけもなく。

以前のように、啓太の部屋へ七条は毎日のように通っていた。

まあ、この時代通い婚が普通であったから、良いのかもしれないが。



「こんにちは、啓太君」



夫だけが許される特権、と。御簾を持ち上げ部屋へ入る。

かぁ、と顔を赤くする啓太に、そっとキスをして。



慌てる啓太を抱き寄せる。



「逃げないで下さい、啓太君」

「でっ・・でも・・・」

「嫌ですか?僕が」

「嫌・・じゃないけど・・・・・・恥ずかしい・・・」



小さな声で言われた言葉に愛しさを感じ、

額にキスを落とす。



「臣!また来ているんだろう!?」

「おや。来てしまいましたね」



折角の雰囲気だが、声を張り上げられれば仕方ない。

それに、啓太の雰囲気が甘い雰囲気から緊張する雰囲気に変わってしまったし。

軽く嘆息したところで西園寺が来る。



「人の屋敷で何をしている」

「だって、郁が啓太君を七条の家に連れて行くのを許してくれないんでしょう?

七条にはいらない部屋もいっぱい余っているのに」

「許すか!」



存外に手ごわい義兄となった彼に、

七条が困ったように言うが当然許してもらえるわけもなく。

まあ当然かと思い、とりえあず見せ付けるように啓太にキスをする。

真っ赤になる啓太を見て、西園寺が片方だけ起用に眉毛を上げて。

不満そうな顔を見せる。



「勝手にしろ」

「はい。勝手にします」

「〜〜〜っ!」



真っ赤になる啓太を、愛しそうに抱きしめて。

こそりと耳元で囁く。

それにまた真っ赤になる啓太を見て、七条は満足そうに微笑んだ。






○END○






●あとがき●

西園寺EDよりも短い七条EDです。
でも、こっちの方がさらりとして読みやすいかな。
西園寺のは七条が〆たので、七条EDも西園寺に絡んでもらいました。

結婚できたみたいですね、七条さん・・。
良かったね。
それにしても楽しそうだ。
そして西園寺がかわいそうだ。(笑)
西園寺、結婚出来ないからねぇ。
ちなみに西園寺EDで七条が言ってた『他の方法』は自分と結婚することでした。
ふふふ。
ということで、七条EDは二番目でした。










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