●Vampire panic!●





最近、西園寺の機嫌が下降気味である。

西園寺が大好きで大好きで仕方ない啓太としては、

ちょっとばかり気になるところだ。

だけど、まさか本人に聞くのも躊躇われるし。



「うーん・・・」



煮物の味を確かめながら、唸っていた。

和物が好きな西園寺のために訓練した結果、随分食事は食べられるようになったと思う。

薄味好みだから、啓太がちょっと薄いかな?と思った程度で止めておけば、西園寺には丁度良い。

だんだん、西園寺のペースがつかめてきた。

だけどそれとこれとは話が違う。

西園寺が不機嫌な理由ばっかりは、啓太にもわからないのだ。

以前七条にそれとなく、会社の経営について尋ねてはみたが、

絶好調、という話がかえって来てしまえば、不機嫌になる理由にはなりえない。

うーん?と唸っていれば、ドアが開いて主の帰宅を示す。



「今帰った」

「お邪魔します」



七条がパックを持ってくることもあり、自然七条が西園寺宅に寄る回数も増えた。

ごくごく自然に、啓太も七条を迎え入れる。



「お帰りなさい、西園寺さん。いらっしゃい、七条さん」

「難しい顔をして、どうしたんですか?」

「え?」

「眉間に皺がよっていますよ」



とん、と眉毛の間を人差し指で押される。

きょとん、としていれば、手元の小皿が取られて。



「ちょっと薄味ですが、郁には丁度良いと思いますが?」



なんてことを、言われてしまった。

困っていたことは別のことではあるが、西園寺を知っている七条にお墨付きをもらえれば嬉しい。



「ホントですか!?」

「ええ。伊藤君は随分料理が上手になりましたね」



頭を撫でられて褒められれば、悪い気もしない。

へへ、と笑って、火を止めてお皿に盛り付けた。



「西園寺さんのためですから」

「そうですか。でも、伊藤君。僕としては洋食も好きなので、今度是非家にも作りにきてくださいね」

「はい!」

「臣!」



元気良く啓太が頷くのと、西園寺が七条を怒鳴るのは同時である。



「西園寺さん。着替えなくても良いんですか?」

「お前は・・・人の気も知らないで・・・」

「西園寺さんの気?」

「なんでもない。臣、私の部屋へ来い。決算についての話がある」

「それは会社で終らせた筈なんですけどね。じゃあ、伊藤君。ちょっと行ってきます」

「あ、はい」



きょとん、とした啓太を残して、西園寺は七条を連れて行ってしまう。

何が悪かったのだろう。

会話を反芻してみるものの、悪い部分は見られない。



「・・・七条さんの家に行くのがダメだったのかな」



啓太にしてみれば、随分核心をついている疑問である。

だけど、所詮は啓太。理由まではわかるはずも無い。

首を捻りながら、焼いた魚も盛り付ける。



「・・・・・・・・・・・・・・もしかして、西園寺さん、七条さんが好きなのかな」



・・・所詮は、啓太なのである。























七条が、西園寺を好きなのは前々から気づいていたことではあるとして。(啓太ヴィジョン)

西園寺は七条のことに関してはそういった素振りを見せなかったのではあるが。

妹から、昔散々『お兄ちゃん、鈍いーっ』といわれてきた啓太としては、

その可能性は多大にあるのかもしれない、と不安になって。



食事中、チロチロと二人を見てみるのだが、

七条からも西園寺からも優しい笑みが帰ってくるばかりで、よくわからない。



(西園寺さん・・・が、七条さんを好きなら、結局は両思いかぁ)



味噌汁をすすりながら、そんなことを考える始末である。

西園寺は好きだ。

自分に良くしてくれるから、好意はだんだんだんだん募っていき。

今では、本当に・・・最愛の人、という感じである。

西園寺に抱くのは普通ではないというのはわかっている。

男だし、人間だし。

だけど、わかっていて何とかなる感情でもないのだから厄介だ。

西園寺に微笑まれれば体温は上昇するし、

一緒に寝ているだけでも幸せである。

だから、西園寺が七条を好きだというのは、ちょっと胸が痛い事実だ。



(七条さんは好きだけど・・・・でも・・・・・)



自分は西園寺が好きで、七条も西園寺が好きだから、

いつかは困っちゃうんだろうな・・・ということは、薄々感じていた。

だけど、西園寺が七条を好きだというのならば、啓太に勝ち目はない。



(どうしよう)



カリ、と箸を噛む。

これは由々しき事態である。

胸を焦がす思いを始めてしたのだから、はっきり言って啓太はこの感情に戸惑いを抱いている。

唯一わかっているのは、西園寺がすごく好きで、他の人にはこの気持ちは負けない、ということだけ。

もう一個オマケの話をすれば、

西園寺が自分以外に柔らかく微笑んでいるのもちょっぴり嫌だった。



魚の骨を取り除きながら、ぼんやりと思考の渦に囚われる。



(西園寺さんが好きだけど・・・七条さんも西園寺さんが好きだから困っちゃうんだよなぁ)



うーん・・・と考える。



だから、七条と西園寺が怪訝そうな顔で啓太を見ていたのも、気づかなかった。

・・・まあ、七条なんかは段々啓太の考えていることがわかったようで、

愉快そうに笑っていたのだが。








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●あとがき●

七条に懐く啓太が面白くない西園寺さん。
啓太が西園寺さんばっかり構うと面白くないから興味を惹きつける七条さん。
七条さんと西園寺さんが仲が良くてちょっと悲しい啓太君。
・・・普段の会計部と大差ないんだけどどうしましょう。
どこに行っても、奴等は奴等ということでしょうか。