[例えばケーキのように甘い恋を] 七条さんと恋人同士になったニュースは、何故か即座に学園中に広まった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・当たり前じゃないか!! あんな大告白をされちゃったのは、 まぁ確かに夜中だし誰にも見えなかったかもしれないけど、 だけど運悪く和希はサーバー塔で何だか管理をしてたらしく、 見てしまったんだ。 それから、MVP戦が終った後の七条さんに対する俺の態度の違い。 バレないわけがない。 中嶋さんは中嶋さんでしっかり見てるし、王様にも言っちゃうし、 王様は俊介に言っちゃうし、俊介なんて誰にでも言っちゃうし・・・・。 ・・・も・・・俺、泣きたい・・・・・。 勿論、七条さんが嫌なわけじゃない。 すごくすごく素敵な人だし、優しいし、・・・・・大好き。 七条さんといると、楽しいんだ。 色んな話もしてくれるし、勉強も教えてくれるし。 一緒に居るだけで、どきどきするし疲れる。 以前、七条さんに聞かれたことがある。 『僕といると疲れますか?』って。 それはすごく失礼な気がするけど・・・だけど、やっぱり疲れるんだ。 七条さんといると、いっつも走ってるみたいに鼓動が早くなるから。 そんなことないです、って言って首を左右に振ったけど、 七条さんはわかってるみたいで、俺の好きな笑顔で微笑んでくれた。 『疲れるのは自然なことなんですよ』 そう言って、七条さんは俺にキスをした。 『僕も、君と居ると疲れてしまいます』 『えぇっ!?』 いつも会計部のお仕事とかで疲れている七条さんを、 さらに疲れさせてしまうのは本意ではないし、 何より・・俺といると七条さんは気を使ってしまうのかもしれない。 そう思うと、少しだけ寂しい。 目線を落とした俺に、七条さんは『言葉が足らなかったですね』と苦笑いした。 『一般的に、恋をしている物同士が一緒にいると、 それだけでカロリーを消費してしまうんです』 『・・・・へ?』 『恋をすると綺麗になると言われている由縁は、その辺りにもあるようですよ』 そ・・そか・・・。 なら・・良いのかな? それって・・・俺が好きだから、だよね。 聞いてないのに、七条さんは『その通りですよ』って。 西園寺さんに言わせれば、かなり甘い俺達の関係。 だけど、嫌じゃない。 +++++++++++ 嫌じゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ないもん。 「どうしましたか?伊藤君」 柔らかく微笑んでいるであろう七条さんの顔も見れない。 は・・・恥ずかしい・・・・・。 七条さんの大きな手が、俺の右手を包むように握っている。 手・・・手を繋ぐとか・・・・。 うう・・・・。 何だか人の視線が痛い気もする・・・。 自意識過剰だっていうのはわかってる。 本とは生温かい目で見てるんだろうけど、 だけどだけど・・・・。 顔中真っ赤にして俯く俺を見て、七条さんはくすくすと笑った。 ・・・・・・・・って、もしかして。 「あ・・・の、七条・・・さん?」 意を決して顔を上げれば、ほんとに楽しそうな七条さんの顔。 「もしかして、俺のことからかってません・・・?」 「そうですね。伊藤君は、とても可愛かったです」 ひ・・・酷い! 涙目になって訴えれば、七条さんはそれこそ声を出して笑って・・・。 そ・・そりゃ七条さんに喜んでもらえるのは嬉しいけど・・・!! 「七条さん、酷いです」 「そうですか?」 「俺のことからかって、楽しんでるんでしょう」 「そうでもありませんよ。 伊藤君に嫌われたら大変ですから、嫌われない程度にからかっています」 「からかってるんじゃないですか!」 ぷ、と頬を膨らませれば、七条さんはまた笑って。 「こんな僕はお嫌いですか?」 と、聞いてきた。 幸い周りに人はあんまりいないけど、 だけど・・校庭でそれを言うには恥ずかしい・・・。 もごもごと口ごも・・・口もご・・?口・・・口ごもって(混乱中)、 だ、だけど俺は一つ頷いた。 七条さんが嬉しそうなら・・・それで良いや。 「・・・ところで伊藤君」 「はい?」 「伊藤君、明日はお暇ですか?」 「明日・・・ですか?はい。予定はないですけど・・・」 そういえば・・土曜日。 七条さんは俺の返事ににっこりと微笑して。 「一緒に、学園島の外へ出かけませんか?」 「・・・・・・・・・へ?」 「デートしましょう。一緒に」 で・・・でーと・・・って・・デートだよな。 ・・・・date?日付だっけ。えーと・・・だからこの場合・・・・。 ・・・・・・・・。 デートって言ったって、俺と七条さんのデートだろう? 俺は七条さんが好きだし、七条さんも俺のことをすいてくれてるから その辺りは問題ないんだけど・・・・。 で・・も、でも、俺も七条さんも男の人で・・・。 ううう・・・・。 「ダメですか?」 「だ・・・ダメじゃないですけど・・・」 だけど、今暇だって言ったばかり。 まさか急用が今ここで入るわけにもいかないし、 それで断ったりしたら、七条さんはもしかして傷ついちゃうんじゃないかとか、 何かそんなことを考えてしまって。 「なら良いですよね」 「あ・・・う、あ・・・はい・・・」 結局俺は、頷いてしまった。 七条さんは嬉しそうに微笑んで、握っていた手を上に持ち上げて、俺の手にキスを落とした。 その瞬間、俺は未だ手を繋いでいたことを思い出す。 こ・・ここ、下駄箱っ。 結局俺、食堂から下駄箱までずっと手を繋いでいたってことになる。 ・・・・・・・・・・・・・。 「では伊藤君。また放課後に」 「え?あ・・」 2年生の教室と1年生の教室は当然ながら別々。 七条さんは心なしか上機嫌で歩いて行ってしまった。 と、同時に急に聞こえてくる周りの雑音。 ・・もしかしなくても俺は今七条さんしか見てなかったかもしれない・・・。 恥ずかしさを紛らわすようにため息をついていると。 「ため息をつきたいのはこっちだよ」 「・・・・・和希」 「何朝からいちゃついてんだよ」 「いちゃ・・・・っ」 いちゃついてない!って反論したいけど、 うーん・・・否定要素が・・・・・。 ・・うう・・・七条さん・・・・。 「・・まあ良いけど。どうしたんだよ、啓太。ため息なんてついて」 「別に・・・」 「・・・七条さんと一緒に居て、幸せじゃないのか?」 和希の、ちょっと真剣な問いに、俺は一生懸命首を横に振った。 七条さんといるのは幸せなんだ。 「・・・そうじゃなくて・・・」 「じゃなくて?」 教室についても、和希の席は俺の隣。 俺の逃げ場はない・・・。 「・・・・七条さんに、デートに誘われたんだ」 恥を忍んで言えば。 和希の顔があからさまに歪む。 「かっ、和希が聞いてきたんだろっ!?」 「啓太が沈んでたら別れ話かと思うだろ?」 「思うなよ勝手に!!」 俺が七条さんのことを話すと、すぐこれだ。 なんなんだよ全く。 「・・・んでもま、良かったんじゃないか?順調で」 「そうだけど・・・・」 「何を悩むことがあるんだ?」 「・・・だって・・・男同士だよ?」 「この前も一度デートに行った事あるんだろ?」 だけど、その七条さん曰くの『デート』はMVP戦前に一緒に買い物に行った時のことだ。 その時はお互いの気持もはっきりしてなかったし、 俺的には友達と遊びに行く感覚に近かった。 ううん、友達ってより親友かな。 だけど今は・・・恋人。 そういう気の持ちようって、すっごく大事だと思うんだ。 本当のデートで・・・・・手を繋いだりとか・・・色々するわけで・・・。 BL学園の中でも恥ずかしいのに、外に行ったらどうなることか・・・。 「あーーー・・・どうしよう、和希っ!」 「何が?」 「何がって・・・」 不意に、和希の顔ににんまりと笑みが浮かんでいることに気づいてしまう。 ・・・・・な・・何を企んでるんだろう・・・。 「よーっするにだ!啓太っ」 異様なハイテンションに俺がついていけない・・・。 「啓太は、男同士だから恥ずかしいって言うんだろ?」 もう俺はこくこくと頷くのみ。 だけど和希にはそれで十分みたいだ。 「なら、お前が女の子の格好すれば良いじゃないか」 「・・・・・・・・・・・・・はぁ?」 「な?啓太なら身長も一寸背の高い女の子で何とかなると思うんだ。 それに、はたから見れば女の子と男の普通ーのデートだろ?」 「え・・あ・・そっか」 片方が女なら普通・・・・・って、そういう問題じゃないんだよ。 「やだよ女装なんて」 「あれも嫌、これも嫌で社会渡っていけないぞ」 「何で人生問題に発展するんだよ」 「いーから。大丈夫、啓太に似合うコーディネートはしてやるし、費用は全部こっちもちだ」 「やーだ」 そうこうしているうちに、先生が入って来る。 「七条さんが迎えに行く前に迎えに行くから。明日は絶対起きてろよ」 「やだってば」 最後まで抵抗していた俺だけど・・・。 実は和希が聞いてくれるっていう気は全然してなかった。 ・・・酷い・・・。 NEXT |