[例えばケーキのように甘い恋を]





少し歩いて、お買い物をして、

お昼を食べて、それからちょっと歩いて。

それから・・・おやつに、ケーキバイキングっていうのに、初めて行った。

周りは女の子ばかりで。

だから七条さんは遠慮してくれてたのかもしれない。

多分、俺のせいだろうけど。



たくさんのケーキの山を前に、フォークを手にする。

女の子の格好してようがなんだろうが、気になんないくらい幸せかもっ。



「いくらでも食べて大丈夫ですよ」

「はいっ」



スカートはスースーするけど、座ってしまえば気にならない。

ケーキバイキングのケーキって、元々色んな種類が食べられるように小さめだから、

何か一杯食べれる気がする。



「いただきます」



ほくほく顔で啓太がケーキにフォークを指す。

有名店だからだろう、足がばたついてしまうほど美味しい。

・・・和希の見立てだからか、スカートは膝下のもので。

足をバタバタするたびに、スカートの裾が揺れる。



「美味しいですか?」

「すっごい美味しいです!」



先程までの泣きそうな顔から一転、満面の笑みを浮かべているものだから。

七条も楽しくなる。

頬についているクリームを指で拭って舐めてしまう。



「なっ・・・」

「美味しいですね」

「や、あのっ!?」

「でも、これだけでは味がわかりません」



ぱくぱくと口を開いている啓太に、七条は微笑みかける。

わからないもなにもとってくれば良いのだが、それを言うのははばかられる。

何しろ、「可愛い君が行ってしまうと誰に連れて行かれるかわかりませんから」なんて、

本気だかなんなんだかわからないことを言って、

ケーキは全部七条が取ってきてくれたのだから。



頭を抱えたい・・・・。

・・・けど、それを許される状況ではない。

う゛う゛・・・・なんて唸りながら、フォークの上にケーキを乗せた。



「嬉しいですよ」



七条はそう言って笑う。

それから、甘いケーキを食べる。

うん・・・美味しい。



それから、やっぱりお約束のように、七条の食べていたケーキも出されて。

赤くなりながら、目をつぶってそれを啓太も食べてしまう。

まさかケーキ全部やるわけではないだろう。まさかまさか。

ケーキのスポンジが舌の上で転がる。



「あれ・・・これ、ちょっと苦い?」

「ええ。ラム酒が入っているようですね。お気に召しませんか?」

「そんなことないです。上にベリーが乗ってて、丁度良いです」

「そうですか。良かった」



ホントに美味しいから言っただけなのだが、

思いもかけず七条が喜んでくれて啓太も嬉しくなる。



一個ケーキを食べ終えて、手元にある綺麗な色の飲み物を手に取る。

ふわ、と、果物の良い香り。



「?七条さん、これなんですか?」

「カクテルです」

「え?」



啓太が七条に聞き返すと、白い指先を唇にあて『内緒ですよ』といわれた。

啓太が思わず苦笑する。

そっか。ナイショか。

思いながら、果物の匂いのするカクテルを飲む。



「桃ですか?」

「はい。白桃です」



こく、と飲んだ途端、匂いを裏切ったようにアルコールの独特の苦さが喉を潤す。

・・・美味しい。

甘いケーキに、合うかもしれない。



「七条さんのおかげです」

「そうですね。伊藤君一人では、きっと頼めなかったと思いますよ」



高校2年生にしては落ち着いた顔をしている・・・

・・お酒を頼んでも疑問に思われないような顔立ちをしていることを案に伝えれば、

高校1年生にしても童顔な顔を指摘される。

へへ、と啓太が笑った。



「次はどれが良いですか?」

「えーと・・・じゃぁ、チョコレートケーキ」

「では僕はこれにしましょう」



はたから見れば、普通のカップルの会話(・・・にしては少々甘い会話だが)

本人達にとっては、いつもどおりの会話、である。







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ふわふわする。

なんだか、たのしいかんじ。



「上機嫌ですね、伊藤君」

「えへへ。しちじょーさんのおかげですっ」

「美味しかったですか?」

「何がですか?」

「カクテルも、ケーキも」

「もう、すっっごく美味しかったです!」

「それは良かった。是非また行きましょうね」

「はい!!」



こういうのは、一度食べさせてしまえば良いのだ。

恥はあったところで、美味しいものに対する欲求というのは費えないもの。

次に誘っても、きっと頷いてくれるはず。



お酒に酔ってしまった為にふらふらしている啓太の腰に手をやる。



「しちじょーさん?」

「伊藤君。真っ直ぐ歩いてみましょう」



酔っている・・・といっても、本当に酔いきっているわけではないだろう。

アルコール度数の低いものをほんの3杯4杯くらいだから、

軽く酔ってるだけ。

きっと意識はあるはずである。

熱いから、風を通してくれるスカートは気分が良いようだ。

『まっすぐ、まっすぐ・・』呟きながら、大股で歩いていく。

七条はそんな啓太に苦笑した。



「可愛いですよ、伊藤君」

「可愛いって言わないでくださいよ!」

「可愛いです」



む、と頬をふくらます啓太に口づける。

唇には、桃のお酒の匂いがついている。

甘い匂い。



「ねえ、伊藤君」

「はい?」

「もう一つだけ。いきたいところがあるんです」

「良いですよ!行きましょうっ」



気分が良いのか、七条が手を繋げば、啓太から握り返してくれる。

「おや」なんて声を出すが、喜んでいるような響きがあることも否めない。

ふらりと変なところに歩いて行ってしまいそうな啓太の手を引き、

七条は一つの建物に入って行った。











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