"Love Love Love" 〜丹羽ED〜 このところ、毎日の公務がしっかり終わり、少々上機嫌な中嶋である。 すたすたと廊下を歩き、自室へ戻ろうとしていて。 ふと、夜空を見上げた。 星を読むのは、陰陽師の得意とする分野である。 そして中嶋も然り。 星を読み、他人の運命を知らせるのもまた、陰陽師の役目である。 ・・・少々、中嶋が眉を顰めた。 「おー。どうした、中嶋」 酒でも飲み交わそうと来たのだろう。 徳利を持った丹羽が、中嶋の様子に声をかける。 「・・・星の動きが変わった」 「・・・あ?」 「啓太の周りで、何かが動き始めたぞ」 相変わらず、空を見上げたままの会話。 丹羽が空を見上げても、星はいつもと同じように瞬いているのだが。 「な・・・何が」 「そこまでは知るか。自分で探れ」 中嶋の腕は、確かである。 それこそ、歴代の陰陽師の名に連なるであろう。 それが言うことだ。間違いはない。 啓太の周りで、何かが。 はじかれるように丹羽が走り出す。 「・・・まあ、不吉なこととは、俺は言ってないがな」 走りだした丹羽に、聞こえないことは承知で呟く。 ちゃんと、言おうとは思ったのだ。 別に不吉なことではないだろう、と。 だけど、それを言う前に丹羽が動いてしまっただけの話。 「・・・」 丹羽の星も明るい。 不吉なことは起こらないだろう。 そう解釈し、中嶋は丹羽の置いていった酒で月見酒を楽しむことにした。 騒がしい丹羽の居ない月見酒も、まあたまには良いものである。 ++++++++++ 一方、その頃西園寺邸では。 「・・・帝と・・・婚約・・・ですか」 啓太が呆然と、呟いていた。 それに、西園寺が頷く。 一歩後ろに、七条も座っている。 重々しい空気だ。 「ああ。先程、帝からお達しがあった。噂の美姫を、是非とも嫁に、だそうだ」 「そんな・・・俺、美姫じゃ・・」 「それは帝も承知だ。その命を受けた際に説明した」 「それでも、噂になるほどなのだから・・・という話です。 啓太君がお嫌でしたら、こちらもそれなりの対応をします」 「啓太が地位を求める、というのならば、帝の嫁というのは最高の地位だ。 帝もそう悪い男ではない。性格も、見た目も。啓太の望むとおりにしろ」 「・・・俺の・・・望む通り・・・ですか・・・」 困ったように、眉を寄せる。 望み通り。 望み。 自分の望みは、ここに居ること、である。 確かに、世界は狭い。 狭い、が、楽しい。 西園寺が居て、七条が居て。 自分の世界は、そこだけだった。 最初から世界が小さければ、それで満足する。 外に出たいと願ったことがないわけではない。 だけど、やっぱり、ここが自分の居場所なのだ。 それに、外に出たいと願ったことはあるが、高い地位が欲しいと願ったつもりはない。 啓太一人で言えば、西園寺と七条と・・・後は、丹羽が居てくれれば、 それなら、本当に、農民でも良いと思っている。 まあ、三人が農民になるかどうかは置いておいて。 ・・・案外丹羽なら似合うのかもしれないが。 とにかく、高い地位を望んだことはない。 そこに、彼等が居なければ、そこは啓太の居場所ではないのだ。 ・・・だが、しかし。 「・・・わかりました・・・」 「啓太君?」 だが、しかし。 西園寺家のお荷物である自分が、西園寺の役に立てるのだ。 親戚が帝。地位向上にはこれ以上ないチャンスである。 いくら自分の望み通りにしろと言われたからといって、その優しさに甘えられない。 無理に、笑みを作った。 「わかりました。後ほど、輿入れの日取りを決めておいてください」 「啓太君・・」 「啓太。お前はそれで良いんだな?」 七条の、悲しそうな瞳。 西園寺の、鋭い瞳がもう一度問いかける。 それは、お前が本当に望んだことであるのか、と。 「はい」 だから、啓太も頷く。 これは自分の望んだことだ。 西園寺の役に立つことは、自分の望んでいたことだから。 「・・・・そうか」 西園寺が、席を立つ。 それに習うように七条も立ち上がった。 「日取りはこちらで決めておく。連絡が来るまで待っていろ」 「・・・はい」 啓太がそっと目を伏せた。 それを見て七条が肩をすくめるが、西園寺が視線でそれを止める。 「啓太君。心配しないで下さいね。僕は、君が嫌がることはしませんから」 「え・・・?」 「臣!行くぞ。お前が居なければ日取りが決まらない」 「わかりました。では、啓太君。また、後ほど」 意味深な七条の言葉を考えている余裕は、啓太にはなかった。 七条と西園寺が出たことにより生じる静寂。 外で虫が鳴いているから、余計に。 月が見えた。 大きく、丸く、黄色く光る。 周りでは星が瞬いている。 「・・王様・・・」 月を見ながら、そっと名を呟いた。 あの人も、同じ景色を見ていてくれてれば良いと思いながら。 NEXT ●あとがき● その人は月見てないで走っていることでしょう。 にしても丹羽ルート、どこまでも続くな。次で終わりますが。 |