"Love Love Love"





「では、行ってきますね。啓太君」

「大人しくしていろよ」

「はい」



西園寺と七条の言葉に、大人しく返事をして。

二人が遠ざかるのを見送る。

足音が完全に遠ざかったのを合図に、

そっと御簾を上げ、周りを確認する。

罪悪感がないわけではない。

だけど、外に出るのは楽しいのだ。

ごめんなさいと呟きながら、

外へ足を踏み出した。





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ざっざっと、竹箒の音が近づく。



「篠宮さん。お掃除ですか?」

「啓太か」

「はい。岩井さん居ますか?」

「今は多分、中で絵を描いてると思うぞ。もうすぐ昼だし、そろそろ昼飯時だな」

「あ、じゃあ俺、岩井さん呼んできますね」

「ああ。もう少ししたら飯を持っていく。啓太も食べるだろう?」

「あ・・・良いですか?」

「ああ、構わない。中には遠藤も居るから、一緒に待っててくれ」



会えるか会えないかわからない和希を探す以前と違い、

今は外でも居場所がある。

篠宮に頭を撫でられ、えへへと笑う。

ちょっとだけ恥ずかしくなって、神社の中で絵を描いている岩井の元へ向かう。



「和希!」

「あ、啓太」

「今日も来てたんだな」

「ああ、まあな。啓太が来るかと思って。

それに、岩井さんの絵もただで見れるしね」

「へえ、そっか。・・あ、でもお昼ごはんの時間だから」

「そうか」



和希が外を見て、太陽が真上にあるのを確認する。



「いわーいさんっ。お昼ですよっ」

「・・」

「岩井さんっ」



筆が絵につかないように、慎重に肩を揺する。

こうでもしないと、現実世界に戻ってこないのだから仕方ない。



「・・ああ・・・。啓太か」

「はい。俺です。篠宮さんが、もうお昼だって呼んでますよ。ひと段落つきそうですか?」

「ああ。大丈夫だ」



筆を置き、岩井が肩を回す。

ばきばきと聞こえる音。



「・・・岩井さん、朝ごはん食べてないでしょう」

「・・・何時間そこに座ってるんですか・・・」

「・・・いや・・」

「・・いや、じゃないですよ・・。全く。そりゃ篠宮さんも心配します」



はは、と啓太が苦笑い。

紙には、精巧な龍が昇っている。

これは、数時間やそこらで描ける絵ではない・・。

和希の言葉につい同意してしまう。



「卓人、良いか?」

「ああ・・。もう大丈夫だ」

「そうか。啓太たちが居ると助かるな」

「へへ」

「全く。しっかりしてくださいよ、岩井さん」



握り飯とお茶、それにタクワン。

ありきたりなご飯だけど、とても美味しい。



「・・ああ、それと。遠藤、客だぞ?」

「・・・客、ですか?」

「ああ。遠藤という男が来ていたら、出して欲しいと」

「・・・げ・・・。とうとう嗅ぎつけてきたか・・・」

「かぎつけ・・・って?」

「うーん・・。何て言うか・・」



和希がぽりぽりと頬をかきながら、眉根を顰めていると。



「遠藤和希!!居るんなら出てきてくれないと、僕が困るだろう!」



入ってきたのは、妙に豪華な男。

金の髪が、日の光を反射している。



「成瀬さん・・。何でわかったんですか」

「中嶋が呼んでるからだよ」

「ああ・・・あの人か・・。陰陽師にゃ形無しだよなぁ・・」



仕方無さそうに和希が立ち上がる。

それにより、彼に余裕が出てきたのか、ふいに周りを見回して。

きょとんとしている啓太に目を留める。



「・・・ん?君は?」

「え・・・俺、ですか?啓太です・・けど」

「啓太か・・・。何でここに?」

「えーと、篠宮さんと岩井さん、それに和希に会いに・・・かな」

「ふーん。・・君、可愛いね」

「・・・へ・・?」



まじまじと見られての言葉であるが、

もしかして視力が悪いんではないかと疑ってしまう。

だって、ガラス球のように綺麗な瞳だったから、

もしかしたら見えていないのかもしれない。

自分が可愛い、だなんて。

そんなこと言った人間は、初めてだ。



にっこり笑われて、何だか顔が火照る。



「成瀬さん。啓太に手を出さないで下さい」

「どうしよっかなぁ」

「啓太に手を出したら、仕事、止めさせますから」

「そしたら僕は、啓太に君の正体をバラしちゃおう」

「成瀬さん!」



ちょっと混みいった、わけのわからない話に、

啓太をはじめ、篠宮と岩井が首をかしげる。



「ごめんね、啓太。やかましくして。僕は成瀬由紀彦。武官をしてるんだ」

「・・・はぁ・・・」



手を握られ、困惑していると、和希が後ろで怒鳴る。



「成瀬さん!戻るんでしょうっ」

「わかってるよ!でも、ちょっとだけ。ねえ、啓太はいつもここに居るの?」

「え?まあ・・大体は・・・」

「ここに来れば啓太に会えるんだ。わかった。また来るね」

「あ・・・はぁ・・。でも、ここ俺の家じゃ・・」

「成瀬さん!行きますよっ」

「わかったわかった。じゃあね、啓太」

「・・・・えーと・・」



何だか喧しい・・・かもしれない。

賑やかな人である。



「・・・なんだったんだ・・?」



台風の去った後、とでも言うのだろうか。

岩井の言葉に、



「・・・さぁ・・」

「なんだったんだろうな・・」



啓太も篠宮も、答えられるはずもなかった。




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(・・・何だか・・・凄い人・・・・。また、来るのかな・・・)



(でも、何だか面白い人だったな。そういえば、和希の正体って?)










●あとがき●

やっと成瀬が出せました・・・。
和希と仲が良いですが、他に組ませる人がいなかったので・・。
とりあえず、色んなところに目をつぶってやってください。










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