"Love Love Love" 「では、行ってきますね。啓太君」 「大人しくしていろよ」 「はい」 西園寺と七条の言葉に、大人しく返事をして。 二人が遠ざかるのを見送る。 足音が完全に遠ざかったのを合図に、 そっと御簾を上げ、周りを確認する。 罪悪感がないわけではない。 だけど、外に出るのは楽しいのだ。 ごめんなさいと呟きながら、 外へ足を踏み出した。 +++++++++ ざっざっと、竹箒の音が近づく。 「篠宮さん。お掃除ですか?」 「啓太か」 「はい。岩井さん居ますか?」 「今は多分、中で絵を描いてると思うぞ。もうすぐ昼だし、そろそろ昼飯時だな」 「あ、じゃあ俺、岩井さん呼んできますね」 「ああ。もう少ししたら飯を持っていく。啓太も食べるだろう?」 「あ・・・良いですか?」 「ああ、構わない。中には遠藤も居るから、一緒に待っててくれ」 会えるか会えないかわからない和希を探す以前と違い、 今は外でも居場所がある。 篠宮に頭を撫でられ、えへへと笑う。 ちょっとだけ恥ずかしくなって、神社の中で絵を描いている岩井の元へ向かう。 「和希!」 「あ、啓太」 「今日も来てたんだな」 「ああ、まあな。啓太が来るかと思って。 それに、岩井さんの絵もただで見れるしね」 「へえ、そっか。・・あ、でもお昼ごはんの時間だから」 「そうか」 和希が外を見て、太陽が真上にあるのを確認する。 「いわーいさんっ。お昼ですよっ」 「・・」 「岩井さんっ」 筆が絵につかないように、慎重に肩を揺する。 こうでもしないと、現実世界に戻ってこないのだから仕方ない。 「・・ああ・・・。啓太か」 「はい。俺です。篠宮さんが、もうお昼だって呼んでますよ。ひと段落つきそうですか?」 「ああ。大丈夫だ」 筆を置き、岩井が肩を回す。 ばきばきと聞こえる音。 「・・・岩井さん、朝ごはん食べてないでしょう」 「・・・何時間そこに座ってるんですか・・・」 「・・・いや・・」 「・・いや、じゃないですよ・・。全く。そりゃ篠宮さんも心配します」 はは、と啓太が苦笑い。 紙には、精巧な龍が昇っている。 これは、数時間やそこらで描ける絵ではない・・。 和希の言葉につい同意してしまう。 「卓人、良いか?」 「ああ・・。もう大丈夫だ」 「そうか。啓太たちが居ると助かるな」 「へへ」 「全く。しっかりしてくださいよ、岩井さん」 握り飯とお茶、それにタクワン。 ありきたりなご飯だけど、とても美味しい。 「・・ああ、それと。遠藤、客だぞ?」 「・・・客、ですか?」 「ああ。遠藤という男が来ていたら、出して欲しいと」 「・・・げ・・・。とうとう嗅ぎつけてきたか・・・」 「かぎつけ・・・って?」 「うーん・・。何て言うか・・」 和希がぽりぽりと頬をかきながら、眉根を顰めていると。 「遠藤和希!!居るんなら出てきてくれないと、僕が困るだろう!」 入ってきたのは、妙に豪華な男。 金の髪が、日の光を反射している。 「成瀬さん・・。何でわかったんですか」 「中嶋が呼んでるからだよ」 「ああ・・・あの人か・・。陰陽師にゃ形無しだよなぁ・・」 仕方無さそうに和希が立ち上がる。 それにより、彼に余裕が出てきたのか、ふいに周りを見回して。 きょとんとしている啓太に目を留める。 「・・・ん?君は?」 「え・・・俺、ですか?啓太です・・けど」 「啓太か・・・。何でここに?」 「えーと、篠宮さんと岩井さん、それに和希に会いに・・・かな」 「ふーん。・・君、可愛いね」 「・・・へ・・?」 まじまじと見られての言葉であるが、 もしかして視力が悪いんではないかと疑ってしまう。 だって、ガラス球のように綺麗な瞳だったから、 もしかしたら見えていないのかもしれない。 自分が可愛い、だなんて。 そんなこと言った人間は、初めてだ。 にっこり笑われて、何だか顔が火照る。 「成瀬さん。啓太に手を出さないで下さい」 「どうしよっかなぁ」 「啓太に手を出したら、仕事、止めさせますから」 「そしたら僕は、啓太に君の正体をバラしちゃおう」 「成瀬さん!」 ちょっと混みいった、わけのわからない話に、 啓太をはじめ、篠宮と岩井が首をかしげる。 「ごめんね、啓太。やかましくして。僕は成瀬由紀彦。武官をしてるんだ」 「・・・はぁ・・・」 手を握られ、困惑していると、和希が後ろで怒鳴る。 「成瀬さん!戻るんでしょうっ」 「わかってるよ!でも、ちょっとだけ。ねえ、啓太はいつもここに居るの?」 「え?まあ・・大体は・・・」 「ここに来れば啓太に会えるんだ。わかった。また来るね」 「あ・・・はぁ・・。でも、ここ俺の家じゃ・・」 「成瀬さん!行きますよっ」 「わかったわかった。じゃあね、啓太」 「・・・・えーと・・」 何だか喧しい・・・かもしれない。 賑やかな人である。 「・・・なんだったんだ・・?」 台風の去った後、とでも言うのだろうか。 岩井の言葉に、 「・・・さぁ・・」 「なんだったんだろうな・・」 啓太も篠宮も、答えられるはずもなかった。 +++++++ (・・・何だか・・・凄い人・・・・。また、来るのかな・・・) (でも、何だか面白い人だったな。そういえば、和希の正体って?) ●あとがき● やっと成瀬が出せました・・・。 和希と仲が良いですが、他に組ませる人がいなかったので・・。 とりあえず、色んなところに目をつぶってやってください。 |