"Love Love Love"





とすとすと、規則的な足音が響いた。



「・・・啓太君。起きてらっしゃいますか?」

「あ、はい。大丈夫ですけど」



また何処からか紛れ込んで来た猫を膝に乗せ、遊んでいた矢先のことだ。

今日のことを思い出して、幸せそうにとろける笑みを浮かべていたところ、

七条の声がかかった。

七条の声に、膝の上の猫が飛び降りる。

ゆっくりと、御簾の外へ出て行く。



「おや、トノサマ。来てたんですか?」

「ぶにゃー」



そっと御簾をめくると、猫が七条の足元にじゃれついている。



「七条さん、その猫知ってるんですか?」

「ええ、この子はトノサマって言って、海野さんの飼い猫なんです」

「うみのさん?」

「まあ、僕らと一緒にお仕事をしている人です。とても頭が良いんですよ」

「へー。そうなんですか」



啓太が感心したように声を出すと、くるりと猫が振り向く。

とことこと、啓太の膝の上にまた乗っかり、丸くなる。



「ふふ。トノサマは、啓太君が気に入ったんですね」

「えーと・・・嬉しい、です」

「良いですね、猫は。いつでも啓太君と一緒に居られる。そんな羨ましい体制で」

「・・・?」

「・・ですが、今日ばかりはね、トノサマ。すいませんが、退いてくださいませんか?」



そっと、七条が猫に手を伸ばす。

面倒くさそうに、猫が顔をあげた。



「これから、啓太君にお話があるんです。トノサマ、席を外してくださいませんか?」

「・・・ぶにゃ」

「あ、すごい。ちゃんと言葉わかるんだ・・。利口なんだな」

「ええ。トノサマは、とても頭の良い猫ですよ」



褒められて満足したのだろう。

猫はゆっくりと外へ出て行き、巨体な体にも関わらず器用に飛んで外へ出る。



「啓太。いるか!」



暫くして、西園寺も啓太の部屋へやってくる。

きょとん、としていると、七条が隣でそっと笑った。



「啓太。真面目な話がある。座れ」

「あ・・・はい」



促されて、その場へ座る。

真面目な話・・・。なんだろうか。








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「・・・結婚・・・ですか・・・?」



西園寺から提案されたことは、それであった。

結婚。

相手は・・・時の帝。



「そんな・・・俺が天皇となんて・・・身分が・・」

「誤解するな、啓太。お前は仮にも西園寺の名を持つ者だ。身分は十分釣り合う」

「そうですよ。ですが、悪いお話ではないはずです。

天皇ですから、ここにいるより不便はありません」

「・・臣。まるで私が不便をさせているように言うな」

「そんなつもりではありませんよ。

でも、 啓太君が西園寺より高い地位と権力をお望みでしたら、とても良い話です」

「でも・・」

「・・・だが、私達はお前を無理に嫁に出すつもりはない。

お前が嫁ぎたいと思えば嫁げば良いし、嫌ならばずっとここにいろ」

「・・・・でも、俺、男だし・・」

「その辺りは、帝も承知の上です」

「・・・・・」



啓太が黙り込む。



帝の、嫁。

それは、とても美味しい話。

本妻でなくとも、その身分を望んでいる女子が、どれだけ居るだろう。

多すぎて、数え切れない程にいるはず。

その中の一人に、運良く当った。

美味しい話、なのに。

だけど・・・



(何でだろう・・・。何だか、悲しい・・・・)



ツン、と、鼻に何かが来る。

目が潤みそうになり、慌てる。



「あ、あの、少しだけ・・考えさせてもらっても良いですか?」

「・・ああ、構わない。すぐに決めるには無理な話だろう」

「是か非か、決まりましたら教えてくださいね」

「家のことなど、変なことを考えるな。ただ、お前の望む通りの答えを出せ」

「・・わかりました・・」



すっと立って、二人が立ち去る。

立ち去った後、残るのは当然、啓太一人。

漠然とした不安が、頭に残る。



「・・・どうしよう・・・」









+++++++++





(・・・成瀬・・・さん・・・)



(助けて、和希・・)

















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