"Love Love Love" 俺って、西園寺さんのお気に入りだったんだ。 くふふ、と、啓太が笑う。 ちょっとだけ嬉しい。 マクラに顔をうずめて、ぱたぱたと足をばたつかせる。 ちょっとだけ、顔が熱かった。 +++++++++ ふいに、落ち着いた足音が聞こえる。 「啓太君。今、よろしいですか?」 七条だった。 急いで座りなおす。 「あ、はい。七条さんは、お勤め終ったんですか?」 「ええ、今日は。陰陽師の仕事と言っても、暦を作るくらいですからね」 「そうなんですか」 「ええ。本来の僕の基本の仕事は、啓太君を守ることですから」 「そんな・・」 「いえ。これは本当のことですよ。その為に西園寺の家に雇われているのですから」 「・・あ・・有難う御座います・・」 「いえいえ」 西園寺の名前を出されて照れる自分に、啓太が照れる。 頬の熱が引かない。 まさかそんな状態で七条を招きいれられるわけもなく。 御簾を上げられない。 「・・・ところで、今日は大事なお話があるんですけれど、聞いて頂けますか?」 「・・・大事なお話・・・ですか?」 いつも柔らかな七条の声が、少し固くなる。 なんだろう、と、身構えてしまうのも仕方がない。 「すぐに郁が来ますので、一緒に話ます」 「はぁ・・・」 「大丈夫です。啓太君が嫌がるようでしたら、僕らが何とかしますから」 「・・・」 嫌がる可能性がある、ということである。 あんまり聞きたくない話だなぁ・・・と思うものの、まさか聞かないわけにもいくまい。 暫くし、先程の男を追い出したのか、西園寺も戻ってくる。 「啓太、御簾を上げろ」 「あ、はい」 啓太の部屋に、二人から入ってくることは珍しい。 それだけ大切な話なのかと緊張していれば、ふわりと髪を撫で付けられた。 「大丈夫です。先程も言ったでしょう?啓太君が嫌がることは、しませんから」 「七条さん・・・」 安心させるような動作に、気持ちが安らいでいく。 七条がさっき焚いた香も、気持ちを落ち着かせる要素があったのか、 何とか落ち着いてきた。 その瞬間を見計らい、西園寺が重く口を開く。 「・・・啓太。よく聞け。帝から、お前を嫁に迎えたいとの達しが来た」 「・・・・帝・・・から・・・・?」 「そうだ」 考えれば、わかったこと。 絶世の美女とされている、西園寺の一人娘。 帝が欲しがらないはずがなかった。 「そんな・・西園寺さん、俺・・」 「臣も言ったとおり、お前の嫌がることをするつもりは毛頭ない。 帝との繋がりが必要ないというわけではないが、必ずしも欲したいものでもない。 お前はどうしたい、啓太」 「どうしたい・・って言われても・・・。 輿入れの時に、俺は男だとばれちゃいますけど、良いんですか?」 「そこのところは帝にも話してある。だが、是非に、とのことだ。 仮にも京を納める人の所からの声だ。 こちらに居るより生活は不自由しないはずだ。どうする?」 (どうする?って・・・聞かれても・・・) 出来るものならば、残りたい。 これ以上、良い暮らしなど、望んでいない。 彼が居れば。 それだけで、良いのに。 ふと悲しくなり、彼の瞳を見た。 (紫色の、綺麗な瞳・・・) (碧の、宝石みたいな瞳・・・) |