"Love Love Love"





俺って、西園寺さんのお気に入りだったんだ。

くふふ、と、啓太が笑う。

ちょっとだけ嬉しい。

マクラに顔をうずめて、ぱたぱたと足をばたつかせる。

ちょっとだけ、顔が熱かった。





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ふいに、落ち着いた足音が聞こえる。



「啓太君。今、よろしいですか?」



七条だった。

急いで座りなおす。



「あ、はい。七条さんは、お勤め終ったんですか?」

「ええ、今日は。陰陽師の仕事と言っても、暦を作るくらいですからね」

「そうなんですか」

「ええ。本来の僕の基本の仕事は、啓太君を守ることですから」

「そんな・・」

「いえ。これは本当のことですよ。その為に西園寺の家に雇われているのですから」

「・・あ・・有難う御座います・・」

「いえいえ」



西園寺の名前を出されて照れる自分に、啓太が照れる。

頬の熱が引かない。

まさかそんな状態で七条を招きいれられるわけもなく。

御簾を上げられない。



「・・・ところで、今日は大事なお話があるんですけれど、聞いて頂けますか?」

「・・・大事なお話・・・ですか?」



いつも柔らかな七条の声が、少し固くなる。

なんだろう、と、身構えてしまうのも仕方がない。



「すぐに郁が来ますので、一緒に話ます」

「はぁ・・・」

「大丈夫です。啓太君が嫌がるようでしたら、僕らが何とかしますから」

「・・・」



嫌がる可能性がある、ということである。

あんまり聞きたくない話だなぁ・・・と思うものの、まさか聞かないわけにもいくまい。

暫くし、先程の男を追い出したのか、西園寺も戻ってくる。



「啓太、御簾を上げろ」

「あ、はい」



啓太の部屋に、二人から入ってくることは珍しい。

それだけ大切な話なのかと緊張していれば、ふわりと髪を撫で付けられた。



「大丈夫です。先程も言ったでしょう?啓太君が嫌がることは、しませんから」

「七条さん・・・」



安心させるような動作に、気持ちが安らいでいく。

七条がさっき焚いた香も、気持ちを落ち着かせる要素があったのか、

何とか落ち着いてきた。

その瞬間を見計らい、西園寺が重く口を開く。



「・・・啓太。よく聞け。帝から、お前を嫁に迎えたいとの達しが来た」

「・・・・帝・・・から・・・・?」

「そうだ」



考えれば、わかったこと。

絶世の美女とされている、西園寺の一人娘。

帝が欲しがらないはずがなかった。



「そんな・・西園寺さん、俺・・」

「臣も言ったとおり、お前の嫌がることをするつもりは毛頭ない。

帝との繋がりが必要ないというわけではないが、必ずしも欲したいものでもない。

お前はどうしたい、啓太」

「どうしたい・・って言われても・・・。

輿入れの時に、俺は男だとばれちゃいますけど、良いんですか?」

「そこのところは帝にも話してある。だが、是非に、とのことだ。

仮にも京を納める人の所からの声だ。

こちらに居るより生活は不自由しないはずだ。どうする?」



(どうする?って・・・聞かれても・・・)



出来るものならば、残りたい。

これ以上、良い暮らしなど、望んでいない。

彼が居れば。

それだけで、良いのに。

ふと悲しくなり、彼の瞳を見た。












(紫色の、綺麗な瞳・・・)



(碧の、宝石みたいな瞳・・・)



















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